あれはただ鈍いだけなのか、それとも。












「おーい、ガイー!」

街中で、不意に声をかけられた。
その声を追って俺は後ろを振り返る。
だが、そこに声の主は見当たらない。
見当たらないどころか、誰ともわからない街の人と思いっきり目を合わせてしまった。

恥ずかしいことこの上ない。

「どこ見てんだよ!」
居たたまれない気分になっていると、もう一度先刻の声が聞こえた。
どこから聞こえてくるのだろう、と、ほんの少し頭を悩ませる。
しかし、居場所の特定はできないため、仕方なくもう一度振り返った。
「わっ!!」
「・・・え、あ、ちょっ・・・ルーク!?」

ガツンッ。

脳内に聞こえてはいけないはずの効果音が勢いよく広がった。
人は本当に痛い時には声も出ないというが、まさにそれ。
痛すぎて泣きそうだった。
目の前に目の前に座り込んでいるルークは、涙目になっている。

何が起こったのかといえば、お察しのとおり。
振り返った瞬間、ルークと俺はぶつかった。
しかも、頭が。
なんでそうなったのかはよくわからない。
よくわからないが、

「・・・大丈夫か、ルーク?」
「大丈夫じゃねぇっ。めちゃくちゃ痛・・・・・・。」
そりゃそうだろう、俺もかなり痛かったからな。
心の中ではそう思うものの、嫌味だ、と機嫌を損ねられては敵わない。
だから敢えて口にしなかった。
「俺は振り返っただけのつもりだったんだけどな・・・。さっきから何してたんだ?声だけ聞こえて、どこにいるのかわからなかったぞ?」
「そりゃ、隠れてたし。」
「何で。」
「なんとなく。」
「じゃ、どこに?」
「そこ。」
流れかけた涙を拭ってルークは上を指差した。
『上』とわかった時点で、俺は俺自身が少し情けなくなった。
「木登りでもしてたのか?」
「うん、まぁな。あ、でも木登りするのが目的で登ったわけじゃないぜ?」

そう、ルークが先ほどを俺を呼んでいた場所とは木の上だった。
振り返っても姿が見えないのだから気のせいだと思うのはまだいいとして。
2回目に声がかかったときに、何故俺は気づかなかったのだろうか。
声の主が、ルークが隠れそうな一番単純な場所に。
「不覚だ・・・。」
「ん?」
思わず溜息をついてしまったが、既にルークの機嫌は直りきっているから問題ない。
それどころか、座り込んだままこちらを見上げて首を傾げる姿は、何かの小動物のようだ。
「それにしても、木に登ってたんなら、何でいきなり落ちてきたんだよ。」
「落ちてねぇよ!俺がそんなヘマするかっ。」
だったらなんで、俺とああまで見事に頭突きをするハメになるんだ。
まぁ、でも実際「落ちてきた」ら、頭突きどころでは済まないような気はするが。
「まぁ、あれだ。」
「何。」
俺の疑問を見て取って、ルークは状況を説明しようとする。
しかし、それに続く言葉は無く。
「・・・ルーク?」
今度は明らかに呆れを含んだ溜息をついてしまった。
そうすれば当然、ルークもむっとした顔つきになる。
そして、意を決したかのように口を開いた。

「・・・ッ、うまくすれば、お前がだきとめてくれるかなって・・・思ったんだよ。悪いかっ!!」

どうやら、ルークは元から俺目掛けて落ちてきたらしい。
いや、それだと「落ちてきた」ことには変わりないように思えるけれど。
まぁ、俺はそれなりにその答えに納得できたから、気にしないでおこう。
けど、答えを口にしたルークの顔が異様に赤く染まっているのはどうしてだろうか。
「別に、俺が困るだけで悪くは・・・ない?・・・のか?・・・・・・いや、それよりお前、顔赤いけど大丈夫か?」
「・・・は?」
「?」
「・・・・・・わかってない?」
「何が?」
互いにかつて無いほどの疑問符が飛び交う。
「お前・・・俺の一世一代の告白を何だと思って・・・。」

「一世一代の告白?木登りして、降りられなくなったことがか?」

「・・・・・・。」
そんなに恥ずかしかったのか。
黙ったままのルークを見ると、どうやら俺の言葉で機嫌を損ねてしまったらしい。
これでは、先刻痛みを口にしなかった意味もない。
まぁ、降りられなくなったなんて情けないと言えば情けないだろうけど、こちらからすれば可愛いとも思えるのにな。
どうやら、ルークのプライドがそれを許さないらしい。
「・・・はぁ。」
痛いほどにらみつけられて、俺は苦笑いするばかりだったが、少しすると、今度はルークの口から大きな溜息が漏れた。

けれど正直、その溜息が何を意味しているのか俺にはよくわからなかった。











当然、ルークがしばらく口を聞いてくれなくなった理由も知るはずがなく。





END






「心情を伏す者の怒り」
復活後初駄文。
正直駄文の書き方をすっかり忘れた。
一応ガイルク。というかガイ←ルク。
勘違いしすぎなガイ。



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