いつも俺だけの場所を探してた。












「お前、髪切ってから雰囲気変わったよなぁ。」
窓の外は既に暗い。久しぶりの宿屋の二人部屋。
ガイが剣の手入れをしている間に俺は先に風呂に入って髪を洗うことにした。
戻ったときには椅子に腰掛けて頬杖を付いているガイの姿。
まだ水気の取れきっていない俺の髪を眺めつつポツリと一言呟かれた。
「そりゃ、鬱陶しいくらいの長さだったし。これだけ短くなれば当然だろ?」
「まぁそうかもしれないけどな。でも、それだけじゃない気がするんだよ。」
うーん、と本気で悩み出すほどのことじゃないと思うんだけど。
まじまじと見つめられると居心地が悪い。
それでもガイは目を話そうとはしないから、それとなく視線を外してみる。
すると、あぁ、と小さく声が漏れた。
「なんていうかさ、丸くなったな、お前。」
「・・・なんで、皆同じこと言うんだよ。」

日が落ちる前、まだ宿に入る前にも散々同じようなことを言われた覚えがある。
ティアは「あなたらしくなくなった」だとか。
ジェイドは「素直過ぎて気味が悪い」とか。
俺は変わりたいと思ったから、本気で変わろうとしてる。
だからそう言われるのは寧ろいいことなんだろうけど。

「複雑な気分だろ?」

「・・・うん。」
思ってたことを言い当てられてしまってちょっとだけ焦った。
いつだって、ガイには隠し事が通用しないんだ。
「でも、皆お前が変わったことを認めてる。それはお前が望んだこと、なんじゃないのか?」
ジェイドと話してると、いつも思う。
こいつは遠まわしだけど、一言一言で俺を試してるんだ、って。
でも、ガイの場合は似てるけど、違う。
「俺は、変わりたい。情けない俺の罪を償うためにも。」
これは、俺の意思だ。
誰にも曲げることなんてできない、決意だ。
「・・・・・・でも。」
「でも?」
ガイは、俺の顔見て微笑んでた。
そう、いつだってこいつは俺の言うことを何度も何度も確認するように話をする。
まるで俺の言葉を待ち望んでるかのように。
だから、嘘がつけなくなる。
決意の中に渦巻いてる揺らぎが、不安が、押し寄せてくる。

「・・・ガイは、昔の俺と、今の俺。どっちが・・・良い?」

自分が変わっていく。7年分の蟠りが一気に解き放たれていくように。
変わっていく俺を認め始めてくれてる皆がいる。
それで俺が生きて、自分で考えて、「それで良い」って存在を肯定してもらえてるのがわかるんだ。
けれど、それが逆に悲しいときがあって。

「俺は・・・、どっちでも良い、かな。」
先刻の微笑みとは違う、悪戯っぽい笑みで言う。
「・・・どっちでも?」
「あぁ。」
このとき初めて俺は、髪を切ったことを少しだけ後悔した。
わかんないけど、なんか、もの凄く安心してる俺が居る。
ガイの一言に満たされた俺が、居る。
「ルークは変わろうが変わるまいがルークだからな。性格なんて俺にとっちゃどうでもいい。」
面と向かってこんな話をするのは慣れてない。
それだけに、恥ずかしくて顔を隠してしまいたい気分になった。
「今だって、昔だって。『ルーク』って人間の根本が変化したわけじゃないからな。俺にしてみれば、昔も今も大差ない。ただちょっと雰囲気が柔らかくなって 素直になっただけ。そうだろ?」
俺に聞くな、って思った。
多分今の俺の顔は真っ赤で、風呂あがりでもなきゃどうかしてるって思われるだろう。
まだ笑ってるガイを思いっきり蹴飛ばしてやりたいくらいだ。
「・・・もう、寝るぞッ!!」
「あらら・・・照れちゃって。やっぱり、そういうところはルークなんだよなぁ。」
「うるせぇ!」
まだ乾ききってない髪を気にする余裕もなく、俺は勢いよくベッドにもぐり込んだ。
傍で笑ってる声なんて、絶対に聞こえない。


変わることの無い俺という存在そのものを受け入れてくれる。
それが心地よくて。
ガイの傍でなら、俺はずっとありのままの俺で居られるんだ。
俺の存在は変わる前から続いてるってことを認めてほしかった。




そこに、俺だけの場所が有ればいいのに。





END






「存在が歪む者の場所」
んー・・どちらかというとガイルク寄り?
ルクガイの方がときめくみたいなんですが書くとしたらガイルクの方が断然楽だと思う。
ということはやっぱり方針はガイルクガイのままなのか・・?;

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