親友なんて、いらない。












勢いよく宿屋のドアが開かれた。
盛大な音を上げた木製のそれからは痛みを訴えるかのように木屑が零れ落ちる。
「部屋ッ!7人分ッ!!」
「へっ!?あ、・・・あぁ、はい。お、奥にどうぞ・・・。」
凄まじい形相で睨みつけられた店員は竦み上がりつつ言葉少なに少年を部屋へ通した。
それと同時にあの客だけには関わらないことにしようと決めて。

「あの、」
「!はいっ!?」
突然の声に店員は裏返った声で返事をする。
気づけば目の前には金髪の青年がひとり。
後方にも5人ほど、随分と年齢差の激しい男女の姿があった。
「今、髪が赤くて長い少年が来ましたよね?その、連れなんですが、彼はどこに?」
そういえば先刻の少年は7人分、と言っていたのを思い出した。
数は合っているからそうなのだろう。店員は息を整えて姿勢を正す。
「はい。先程のお客様でしたら、あちらの奥の部屋にお通し致しました。7名様、と承っておりますが。」
「えぇ、7人です。・・・あの部屋ですね、わかりました。お世話になります。」
礼儀正しく一礼をして青年は後方の男女たちにもその旨を伝えた。
その雰囲気がどことなく店員の目には貴族のように映る。
果たしてこの一行はどのような人たちなのだろうか。
相当に気にはなる。
しかしこれ以上関わらない方が身のためだと思い、静かに彼らが部屋に入るのを見送った。
























「ルーク。」


ガイは静かに部屋のドアを閉めた後、ベッドにうつ伏せになっている少年の名を呼んだ。
他の仲間たちには席を外してもらうよう頼んだため、今頃は買い物でもしていることだろう。
「一体どうしたっていうんだ。いきなり飛び出したりして。」
ガイはルークがこのように機嫌を悪くした理由を知らなかった。
街に着くまでは普通に話をしていて、何も機嫌を損ねるようなことは起こっていない。
「ルーク。」
もう一度名前を呼んで、その肩に手を置く。
すると、顔はベッドに埋めたまま、ルークはくぐもった声を出した。
「・・・ガイなんて嫌いだ。」
「は?」
あまりに唐突なことを言われてガイは目を丸くする。
突然嫌いだと言われても、ココ最近に嫌われるようなことをした覚えはない。
だが、ルークのこの突発的な行動が自分のせいだとしたら理由を聞かなければ始らない。
そうガイは悟り、飽くまで静かな声で尋ねる。
「俺が、何かお前の機嫌を悪くするようなこと、したのか?」
沈黙が広がる。
ルークが答えなければどうしようもないこの状況に苦笑しか浮かばない。
しかし、頭を撫でても手を振り払うわけでもなく。
「・・・なぁ。」
「ん?」
しばらくしてから、ようやくルークが口を開いた。
相変わらず顔は伏せたままで表情は窺えない。

「俺は、お前にとっての・・・親友、か?」

小さく小さく聞こえた声は弱弱しく、震えていた。
それを感じてガイは思わず即答しようとした言葉を慌てて飲み込んだ。
親友だとか、友達だとか、幼馴染だとか。
確かに街に入る直前にそんな話をしていたような覚えがある。
原因はその話なのだろうか。
だとしたら。
今、ルークが求めている答え。
それがなんなのか、わかったような気がした。
「・・・顔、上げろよ。」
泣いているのだろうというのはわかっている。
それでもガイは、今ルークの顔を見たくて仕様が無かった。
ガイの声が真剣味を含んでいるのを感じてか、のろのろとルークは起き上がる。
目にした表情は萎れた花のようで、顔も赤い。

次の瞬間に伸ばされた手に、ルークの体は抱き寄せられていて。

「!・・・ガイ?」
震えているその姿があまりに愛おしくて、知らずにガイは微笑んでいた。
腕の中のぬくもりをもう決して手放したくないと、強く願って。














「俺は『恋人』の方が嬉しいんですけど、だめですか?ご主人様。」

















甘い言葉に涙は喜びを帯びて、溢れ出した。





END






「意味を悟る者の幸福」
前回がルクガイだったので今回はガイルク。
ルークを泣かせたかっただけです。ホントそれだけです(ヲイ
前置きと余白が多いのはご愛嬌・・・(´ー`;)


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