「うわー!工場がジャングルになっちゃってるんですけど!!」
不自然なほどに静まり返ったペトナジャンカの街。
人の姿を探していて見つけたのは人だかりと煙突の街と呼ばれるだけはあると納得できるほど大きな工場。
しかしそれも今は見る影も無く鬱蒼とした緑に多い尽くされているのみであった。
「・・・樹のフォルスの暴走、か。」
王の盾を追ってここまで来てみればいつかのようにサレとトーマに軽くあしらわれて憤慨しているヴェイグ。
ポツリと呟いてみたのはそこにクレアをさらわれた自分と同じ姿を、工場で暴走しているだろう能力者に感じたから。
氷のフォルスと樹のフォルス。
その対称的な力を持つティトレイという青年と話がしてみたい、と心の隅に思いながらヴェイグは歩き出した。

「・・・何あの花っ。気持悪・・!」
「そ、そんなこと言わないでよ、マオ!」
工場に入ってから多少遠回りさせられつつも、ようやく建物の中心となる溶鉱炉にまで辿りついた一行。
普段であれば大量の熱を発しているだろうそれも今は呼吸をするかのように蠢いている大きな花に取り囲まれていた。
「・・・この花、生きているみたいだな。」
「い、生きてるだなんて!・・・バイラスじゃないんですから。」
「でもすっごく気持ち悪いよネ。」
「お前が怖がるとは、珍しいな。」
「ボクにだって怖いものくらいあるの!」
いかにも気持ちが悪いと感じている顔をして、年少組みはなるべくその花を遠ざけながら歩く。
マオの炎で燃やそうとしてもびくともしないのを見ると、生命力の強さよりも恐怖心を持つものではどうにもできないのだろうという印象をヴェイグは受けた。
それ故か、単なる弱点かはわからないが、とりあえずマオ程花に恐怖を持っていないヴェイグの氷は一時的に花の動きを止めることができるようだ。
だが、ヴェイグの中にはどうしてこうまでも色々な意味で強い花を作り出すことが出来るのだろうという疑問が残り、先刻以上にティトレイへの感心は高まって いた。
このもどかしいほどに強い樹のフォルスは今の自分では暴走しても凍らせることはできないものなのだろうと感じながら。

その後も何度か不思議な花を見かけることになったが、あの大きな花ほどのものは存在しなかった。
「この奥にティトレイがいるよ!」
強いフォルスを感じて声を上げるマオの顔に浮かぶのは不安のみではなく、どこか楽しそうな表情。
不謹慎だと言ってしまえばそれまでかもしれないのだが、ヴェイグにはその気持ちが少しわかる気がしていた。
それでもガチャリ、とドアを開く音が響く頃には既に4人ともに緊張が走っている。
「・・・これは・・・。」
「・・・あれが、ティトレイ・・・か?」
「みたい、ですね。・・・それにしても・・・。」
「凄くおっきいよあの木ー!」
部屋に入れば今まであった工場の雰囲気が無くなり、全く別の世界、それこそジャングルに放り出されたかのような感覚が全員を襲った。
目の前に広がる、何とも巨大な木は部屋中に根を張りめぐらせ、上は屋根を突き破って葉を見ることさえできない。
そして、その気を作り出した本人であるティトレイはその大樹に守られるかのようにして幹の間に作り出した空間に立って居た。
「どう・・するんですか?このままじゃ助けられませんよ。」
このまま、というのは他でもなくティトレイがピクリとも動かずにいることである。
下手に近づけば暴走しているティトレイ本人よりも周りを取り巻く木々に攻撃されかねない。
「・・・ヴェイグ。周囲の木を凍らせろ。」
「・・・オレが?」
「どうせボクの炎は効かないだろうしねー。ヴェイグ、頑張れ!」
ユージーンに言われるがままにヴェイグはティトレイから少し離れた場所に立ち、大剣をかざす。
真正面にティトレイを見据えれば、今の状況と一年前のあの日のことが重なって。
「・・・クレア。」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟くと、すぐにその大剣を勢いよく地面に突き刺した。
すると一瞬にして辺り一面は凍りつき、部屋中の温度が一気に下がり始める。
「うわっ・・・寒い!」
「でもこれであの植物は凍って・・・。」

バリッ

アニーが話し終えないうちに鈍い音が響き始めた。
連続して聞こえてくるソレはまさに氷を砕く音。
「来るぞ!!」
「すっごーい!!ヴェイグの氷を突き破っちゃうなんて!」
「喜んでる場合じゃないでしょ!」
みるみるうちに崩れていく氷を目にして驚きつつも各々戦闘態勢をとり始めた。

そんな中でヴェイグは、剣を突き刺したままに、ただティトレイの姿を眺め続けている。
「・・・やはり。」―――こいつは、心が強いんだな。
全ては言葉にせず、ひとり納得したように頷いた。

「姉貴を・・・姉貴を返せーー!!」
暴走したティトレイの声が何処までも響き渡り、びりびりとヴェイグ達の耳に痛いくらいに届く。
「落ち着いてください、ティトレイさん!」
「ボクたちは町の人に言われてキミを助けに来たんだよ!?」
「そんな話、信じられるかよ!」
「暴走している者に、何を言っても無駄だ!戦うしかない!」
錯乱しきっているティトレイを見てユージーンは素早くその判断を下した。
このまま話をしていても下手すれば攻撃されるだけだと考えたのだ。
アニーもマオも一瞬躊躇ったが最終的には結論に達したようで、改めて武器を構える。
「・・・ティトレイ、か。」
3人の傍で、またヴェイグはポツリと今度は青年の名前を口にした。
だがすぐに大剣を抜き取り大きく振りかぶって間髪容れずに切りかかり始める。
「はぁっ・・・!絶氷刃ッ!!」
「・・・うぐっ!このっ・・野郎!」
「ヴェイグさんっ!?」
ヴェイグの突然の行動に3人共驚き、慌ててそれに続く。
しかしヴェイグはそれを気にすることも無くティトレイと対峙し、よもや一対一と言っても過言ではない状況にまで成り果てていた。
そして両者とも何度も何度もただひたすらに相手に向かって突進していく。

「・・・どうしたんでしょう、ヴェイグさん。」
「なんかいつもと雰囲気違うよネ・・・。」
普段とは全く違うヴェイグの様子に気圧されて、3人は手出しもできずに後方佇んでいた。
無口な筈のヴェイグが苦しそうに必死にティトレイに向かっているのを誰に邪魔ができるだろうか。
「だが、そろそろどちらも限界のようだ。・・・それにこれ以上あのままティトレイを暴走したままにしては危険だ。止むを得ん、やるぞ、マオ。」
「了解だよ!」
そう言って二人はその場でありったけのフォルスを開放する。
「何っ!?」
「!?・・・マオ!ユージーン!」
そのとき、ユージーンの瞳には振り返ったヴェイグが放った言葉を理解したが、了承するわけにもいかず、敢えて無視をすることにした。
やがて膨大なまでのフォルスがティトレイに向かって放たれる。
「っ、うわぁ!!・・・あ、姉貴っ・・!!」
そうして、やっとのことでティトレイは気絶し、その場に倒れこんだ。

「っ!ユージーン・・・邪魔をするな、と・・・言っただろう。」
ティトレイの様子を確認するとヴェイグはユージーンを振り返り、先刻の言葉についてを抗議。
やれやれと言った様子のユージーンは飽くまで冷静にその問い答える。
「あのまま攻撃し続けていればティトレイの命が危うかったのだから仕方が無いだろう。・・・それともお前は助けて欲しいと言われた相手を己の為に殺しても 構わないというのか?」
「っ・・・・すまない。オレが悪かった。」
「・・・いや、わかれば良い。少しきつい言い方をしてしまったな。」

「・・・う・・ん・・?」

「あ、目が覚めたみたいですね。」





















「いやー。それにしても今日は絶好の旅日和だよなぁ。」
ペトナジャンカを出て数時間。一行はサニイタウンを目指して歩き出したところである。
そこには何故か数時間前に戦ったティトレイの姿。
「・・・ティトレイ。本当に良いのか?オレ達と一緒に来て・・・。」
「なーに言ってんだよ、今更。言っただろ?おれは王の盾の連中ぶっ飛ばして姉貴を助けるんだって。」
「・・・まぁな。」
旅の中で歩きながら、誰かが自分の隣に居るということにヴェイグは少なからず今までにはない感覚を味わっていた。
今までであればマオはユージーンの隣。その後ろにヴェイグ。アニーはそこから少し離れて歩くというのが常であったのだ。
だが、今こうやってティトレイが隣に居て、ごく当たり前のように会話をしていることがヴェイグにとって新鮮で。
「ねーねー、ヴェイグ。そういえばティトレイと戦ったときいつもと雰囲気違ってたよネ。何で?」
「あ、それ、私も気になってたんです。・・・どうしてですか?」
突然ひょっこりとマオが顔を出して質問を投げかけてくる。それに興味を示したように、アニーまで。
「・・・気のせいじゃないか?」
今更どうして、と言われても答えるわけにはいかなかった。
ましてやすぐ傍にはティトレイが居る。
「えぇー!答えになってないよー!」
「・・・言えないようなことなんですか?」
「・・・どうだろうな。」
適当に答えをはぐらかして歩調を速めれば2人は不満げな顔しながらもそれ以上聞く事はしなかった。
こんな、自分でも戸惑うような気持ちなど、口にできるものか。
「なんだよなんだよー!なんだったんだよ、今の話?」
それでもティトレイは速めた歩調にもついてきて面白そうにヴェイグの顔を覗き込む。
浮かべられた笑顔を見て、ヴェイグが可愛いなどと有得ない単語を思いついたのをティトレイは知らない。
当のヴェイグも今のは何かの間違いだと思いつつ、今度は走り始めていた。
「って、おい、ヴェイグ!逃げるなよ!教えてくれたっていいだろ!?」
「・・・・いつか話す。」
「・・・いつかっていつだよ・・・。」
走っても尚追いついてくるティトレイにわずかに微笑みながら。










オレはこいつの心に惹かれた。
クレアを取り戻すために始めたこの旅だというのに、オレはティトレイと戦っているとき、完全にクレアのことを忘れてしまっていた。
正確に言えば、クレアのことを考えていた筈のオレの頭がティトレイのこと一色に染まっていただけなのだが。
それに、姉を呼ぶティトレイの姿に、オレはオレを見た気がする。
でもこいつはオレとは比べ物にならないくらい心が強くて。
きっとティトレイはオレにとって必要な人間なのだと。
クレアにも感じたことのない不思議な感覚がオレを襲う。
それからというものクレアのことばかり考えていた筈の今までが一転してティトレイのことばかり考えてしまうことさえある。
果たして人はこの感情をなんと呼ぶのだろうか。







気がつけば今も。














END







「絶え間無い感情」
色々捏造されてます;
あっさりと出会い場面を書きたかった筈がなんでこんなことにOTL
戦闘場面はすっ飛ばしました
というかヴェイティトなのに他キャラの出番の方が多い(汗
恐らく書きたかったのはヴェイグの一目惚れ。

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