「なぁ、なんでお前ってそんなに髪伸ばしてるんだ?」

それはバルカの宿屋に泊まったときのこと。
オレは相変わらずな部屋割り通りにティトレイと一緒に居た。
それも、素晴らしく心音の速くなりそうな体勢で。
旅に出てからしばらくちゃんと手入れをすることのできなかった髪の三つ編みをほどいていると、急に面白いものを見たかのようにティトレイに思い切り髪を 引っ張られたのだ。
おかげで並んで座っていただけだったその体勢は一気に崩れ、何がどうなったのだか、今オレの頭はティトレイの膝の上にある。
ティトレイは当然何とも思わずオレの髪を弄っているのだが、オレの方と言えば動転しきった心の内を抑えることに必死だった。
「なんで、といわれてもな・・・。今更切るのも面倒だ。」
「あー、わかるわかる。おれも面倒だからこのとーり。」
開いている片方の手でティトレイは自分の髪をつまんで見せる。
それと一緒にされるのもどうかと思ったが、ティトレイなのでまぁ良い。
「ヴェイグの髪ってサラサラしてて手触り良いよなー・・・うわっ!」
オレの頭を撫でるようにして手を触れていたティトレイの顔がほんの少し近づいたのを見計らって、彼の髪を掴んでそのまま顔を布団に沈ませた。
その時素早くオレは起き上がって。
「・・・お前の髪はふわふわしていて気持ちが良い。」
うつ伏せになったティトレイの耳の傍で小さく呟いた。
未だ顔を上げようとはしないその体が一瞬ビクリと跳ねたのは気のせいではないだろう。
「・・・ティトレイ?」
クスリと笑みを零した音が聞こえたからか、反応が無い。
今無理矢理顔を上げさせたらティトレイは確実に怒る。
それでもその顔を見たいと思うオレは間違っているだろうか。
おそらく真っ赤になり、眉間に皺を寄せて上目遣いで睨んでくるだろうその愛しい表情を。
「ティトレイ。」
「・・・なんだよ。」
もう一度呼んで返って来た声に覇気は無く。
悪いことをした覚えも無いので謝るというのもおかしい。
だとしたらどうやってこの沈黙にも似た、それでもオレにとっては心地良い雰囲気を打開できるか。
そこで思い立った考えに、オレは益々笑みを深くした。
そして徐に緑の頭に手を伸ばすと、いつまでも起き上がる気配のない後頭部の髪を掻き分けて、そっと顔を近づける。

「ひゃぁ!?・・・うぇ!?あ?・・ぅぅ?」

次の瞬間、なんとも言えない奇声を発してティトレイは突然飛び起きた。
混乱しきっているその顔はやはり真っ赤で。
「・・・真っ赤だな。」
「う、うるせぇ!!・・って、あのなぁ!お前・・・今・・!!」
敢えて口に出して言ってやれば更に赤みが増した。
予想通り首筋を押さえながらもティトレイは眉間に皺を寄せて上目遣いでこちらを睨む。





さて、これからどうしてやるべきか。







END





「触点を隠せ」
私の書く受けは皆首筋が弱いのです。

back