いっそあいつみたいになれれば、なんてことは思いもしなかった。












「なーヴェイグー。」
「・・・なんだ?」
旅路でのよくある休憩中。
いつもみたいにふたりでおれとヴェイグは近くにあった大木に凭れ掛かって話をしていた。
そのときふと目についたのはいつも通りのヴェイグの表情。
感情の見えない、静かな。
「お前ってさ、笑わないのな。」
「・・・そうか?」
時々揺れる彼の編まれた長い髪を引っ張りながら顔は合わせないで呟く。
それは初めてヴェイグに会ったときからずっと思っていたこと。
おそらく他の仲間達も同じような印象を抱いているのは明白であるのだから、と代表して聞いてみたのだがまさか先程のような返答がこようとは思ってもみな かった。
「・・・おれ、まだお前の笑った顔見たこと無いぜ?」
「・・・そうか。」
っていうか口数も少ないし、なんてことを言っても恐らく先程と同じ返答が来そうなので言葉にするのはやめておく。
つまりはあれか、ヴェイグが無口で無表情なのはやっぱり自然体なんだな。
つーか天然?
「お前、楽しかったら笑おうって思わないのか?」
「別に、笑わなくても楽しいことには変わりないだろう。」
「・・・そりゃそうだけどよ。」
そりゃぁ、楽しいって思えば本人にとっては楽しいんだろう。
笑顔なんて他人にその感情を伝えるために有るようなもんだろうし。
「なら、お前はどうなんだ?」
「へ?おれ?」
おれはいつでも笑ってるぜ?
なんて答えを返そうとして見上げた先に映ったヴェイグの表情はやっぱり無表情だったけど、真剣で。
「何故、楽しくも無いのに笑おうとする?」
「・・・?」
「オレには時々お前の笑った顔が痛々しく見える。」

胸が、大きく揺さぶられた。
なんで?なんて言葉すら出てこない。
こんな話をし始めた自分が馬鹿だと心底思う。
それは知られてはいけない感情。

おれは、

「・・・ユージーンが呼んでいる。戻ろう。」
「・・・え?・・あ、うん。」
答えを口にする前に突然ヴェイグはおれに背中を向けて歩き出した。
尤も、答える気など最初から有りはしなかったのだけれど。
こんなとき、やっぱりこいつは優しいんだって思う。
無表情だけど、無感情じゃないんだって。

ユージーンの呼び声におれは笑顔で手を振って。
そう、今も。

遠くなっていくヴェイグの背中。
その姿の大きさがとても羨ましくなった。
お前に何も言えない自分のちっぽけさを噛み締めながら。


「・・・おれは。」






今も、「笑ってる」って、信じたい。







END





「無感情を笑う」
シリアス2回目。
でも前回に続いてるようにも思えないし、やっぱり設定にも掠ってない(吐血

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