06:髪がなびく

強い風が吹いた。
追い風だったもんだから一瞬にして俺さまの目の前は紅に染まる。
こんなときほど自分の長い髪が邪魔だと思ったことは無い。
たまに目に入ったり、汗かいてたりすると顔に張り付くんだぜ?
目障りなことこの上ない。
只でさえ俺はこんな血みたいな色が嫌いなのに。
だったら何で切らないかって?
だって、俺さまに近づいてくる女の子達がこっちのほうがいいって言うしさ。
別に無視したっていいんだけどね。
まぁ、その他にもいろいろと有ったりするわけよ。
それは、口にすることにすら悪寒を感じること。
だから、言わない。
きっとこの髪は俺の罪深さの象徴。
馬鹿馬鹿しくも、それは戒め。
生きて苦しめと言う母親の声が耳元を流れる。
紅に触れるたび生温い感触。
錯覚だと理解していても理解できない。
真っ赤に染まる手。
そのときだけ確認することのできる色。
でも、それは離れることは無いのだろう。
俺の周りには何時でも紅が付き纏っていた。

「あー、邪魔っ、髪邪魔っ!!」

後ろでがきんちょがわめいているような気がする。
あ、今は向かい風だ。
「痛っ!いててて・・!おいおいおい!引っ張んじゃねーよっ!」
風に靡いている紅いソレは今まさに俺さまの背後に居たがきんちょの顔を襲っていた。
当然それを振り払うようにがきんちょは頭を振るわけだ。
んで、その後抗議しなきゃ気がすまないってんで、俺さまの髪を勢い良く引っ張った。
痛いんだぞ?ホントに。マジで。
「何やってんだよ、二人とも。」
あ、こいつ、今笑いやがったな。
「ゼロスの髪が邪魔だったから振り払ってただけだよ。」
「だけってなんだよだけって!思いっきり俺さまの麗しい髪を引っ張りやがったじゃねーか!」
「何が麗しい、だよ。ゼロスの髪は邪魔なだけでしょ!」
「あんだと!?」
そうやっていつものようにギャーギャー騒いでみせるわけだ。
確かに邪魔なだけだと心の中で肯定したのを知っているのは当然俺さまだけ。
「でもさ、綺麗だよな。ゼロスの髪って。」
「なにソレ。ロイドってばゼロスの味方するの?」
「いや、味方って訳でもないけど・・・。お前だって綺麗だとは思うだろ?」
「・・・まぁ、不本意だけど、認めてあげなくはないよ。」
わー、ロイドくんてば素で女の子口説けるよ。
つーか、コレットちゃんとかしいなとかはそれにやられちゃったわけなんだな。妙に納得。
でも俺さまの髪を誉めるなんてロイドくんも馬鹿だよね。
俺、一瞬ロイドくんのこと嫌いになったしな。
まぁそれは一瞬なんだけど。
確実に好感度は下がったぜ?
ロイドくんがんなこと気にするとは思えないけどね。馬鹿正直なのがたまにキズ。
たまにでもないか。少なくともテセアラでそんな性格は損するだけだ。
「誉めてくれんのは嬉しいけど、野郎にってのがなー。」
「・・・もう二度と誉めてやんねー。」
誉められても嬉しくねーよ、なんて思ってるわけじゃないけれど。
風に髪が靡く度、俺は誉め言葉なんてもんが嫌いになっていくのがわかる。

いっそこの紅を貶してくれ。
罵詈雑言並べたって構やしねぇからさ。

風に靡く髪。
それは艶やかに空を渡って。





07:あの時
俺さまの目は一瞬点になったと思う。
そんなの格好悪いから嫌だけど。
でも、絶対なったよ。今回ばかりは。
「・・・ロイドくん。今先刻、二度と俺さまの髪誉めてやらないとか言ってなかったっけ?」
俺の聞き間違い?
俺さま実は微妙に難聴だったりするわけ?うわ、意外な事実にちょっとショック。
「あの時はあの時。今は今。良いじゃん、誉めてるんだし。」
「ロイドくんてば単純・・・。」
「う、うるせぇ!俺は、正直者なんだよ!」
あ、自分で認めちゃった。
だからさ、俺さま正直者なロイドくんは嫌いなの。
他の奴らはそれが良いところなんだっていうのかもしんないけど。
「・・・正直者は損するぜ?」
「わかってるよ、そんなこと。でも、ゼロスのこと誉めて何が悪いんだよ!」
悪い。悪いよロイド。
無意識にお前は俺の傷を抉るんだ。
誉められることは嫌いじゃないのかもしれない。
でも、誉められることばかりの俺の日常は酷く退屈なものだから。

あの時の記憶はまだ俺のなかで蠢いている。




08:夢を見た

真昼間から夢を見たような気がする。
昼から夢を見るなんて大抵悪いもんだって決まってる。
そう、それはまた紅い夢で。

「ゼロス?・・・どうしたんだ?」
あぁ、今までロイドくんと話してたんだ。
だけどロイドくんに誉め言葉を頂いた瞬間。
ほんとに、一瞬。
「・・・夢、見た。」
あ、声にしちゃった。
言うつもりなんてなかったんだけどなー、
なんて思ってると当然ロイドくんの顔には疑問符満載で。
「夢?寝てないのにか?」
「・・・うん。紅い夢。」
なんか、今の俺さまもの凄く正直かもしんない。
うげ・・・もしかしてロイドくんのがうつったとか?それは勘弁して欲しいなー。
ロイドくんの専売特許奪っちゃうのも可哀想だし。

「紅い?」
「そうそう。・・・なぁ、紅いっていって思い浮かぶのって、何?」
「え?えーと、・・・・お前の髪。」
「・・・ロイドくんなんて嫌いだ。」
「え!?」
目の前にあったから仕方ないのかもしんないけど。
今のでザクッと音を立てて腹のど真ん中にでもナイフ突立てられた気分になった。
俺さまに嫌いだって言われたロイドくんは慌てふためいている。
・・・今更嫌いになんてなれないなんて、知ってるくせに。

いっそ今さえ夢であればと願っちゃ駄目か?