秘境シリーズ ダム編

 秘境のダムを訪れる 長井ダム 木地山ダム
                                      平成21年12月2日

平成21年12月2日の山形市は晴れだった。例年なら一回は15センチほどの
積雪があるのが通例なのだが今年はどうしたわけか無い。
平地だけではなく山間部も蔵王や月山を除けばまだ林道が通行可能である。
でもそれも時間の問題で12月の上旬にはドサッと雪が降るのは間違いない。
そう思うと先日報道されていた山形県長井市の山間にある長井ダムがほぼ完
成して現在自然湛水の作業に入ったと新聞記事にのっていた。
そうするとダムの内側を見られるのは今しかないなと気づいた。
来年になれば相当に水が溜まるだろうし観光客も多くなりゆっくり見れないと考え
朝10時に山形市を出発して現地に向かった。
ダムは長井市の西5キロにあるが底は狭い谷間に地域で急速に山間部になって
おりあまり長井市の人も入り込まない地域だが現在は道路も舗装されている。
次がダムのある辺りを平野部から眺めた写真である。
正面の山が重なりV字形になっているその奥が長井ダムの位置する所である。


次の写真の右側のジグザグな道路を登っていくことになるのだが以前は下の川の
左に沿った狭い道を延々と登っていったものだった。
現在の新しい道は今もまだ相当の工事が行われておりダンプカーがひっきりなしに
通行しているので要注意である。ここからの道は決して景色に見とれてはならない。


立派なトンネルがあり以前体験した苦労は必要なく突然にダムの内側に出られる。


進行方向左側に新しい長井ダムが現れてくる。
ダムは重力式コンクリートダム。
提高は125メートル、提の長さは390メートル、貯水容量は4800万?とのことである。
重力式であるから両側の岩盤はあまり強固ではなかったのだろう。そのために重力
式にしたのだろうが打ち込んだコンクリートの量は膨大だったと聞いている。


この新しい長井ダムはある特徴がある。それは既存のダムを飲み込む形で建設された
という点である。
この長井ダムが完成する以前にこの上流に菅野ダムという中規模のダムがあった。
私は何回か行ったことがあるがこの菅野ダムだって相当に大きいダムであったがこの
長井ダムはその菅野ダムの施設をそのままにして飲み込む形でダムを建造したのである。
その様子を次の写真でご覧いただける。
この上部の大きな橋は竜神大橋というが来年あたりからは橋げたの下部までに水が
溜まるのでこの高さは感じ取ることは出来なくなる。
考えてみると私は以前に下部に見える廃棄される運命の堰堤右側に見える細い道を
辿って更に上流に行ったのだった。よくあんな所を通ったものと今更に感心する。


 もう少し詳細に見てみよう。この光景はもう来年には見れなくなるかもしれない。

 この埋没する菅野ダムを記念する垂れ幕も設置されていた。
 地元の人のご苦労様という気持ちの表れである。


 さて実は話は続くがここからが今回の探訪のメインイベントである。
この更に8キロメートル以上上流に木地山ダムがある。
ただここは本当の秘境扱いの土地でめったに人は行かない。
ここまでの道は狭く、片側は断崖絶壁である。従ってUターンは不可能でひたすら登る
だけとなる。擦れ違いは考えない方が良い。それを考えたら行けない。
ただひたすら対向車の無いことを祈るだけである。ここには軽トラックが最適だと
思う。ワゴン車などでは行かない方が良い。
 ここからの多くのトンネルは工事中で原則は通れない状態なので照明は無い。
トンネル内は漆黒の闇の世界である。進入した瞬間は何も見えなくなる。十分に気を
つける必要がある。

今後の天候を考えると林道走行はおそらく今日がその最後のチャンスの日で
あろう。
雪が降ればもう来れなくなると考えると折角ここまで来たのだからと更に奥地の
木地山ダムを急遽めざすことにした。
以前の時は夏であったので木々が生い茂り下の谷間はあまり見えなくて何の
気なしに登ったのだが今回は晩秋ということで木々の葉は全て落葉してしまい
下の渓谷の底までクッキリと見えるのである。
改めて下を見ると白い牙をむいて川の水が躍っている。
しまった!。来るんでなかったと思っても前述のとおりUターンの場所がない。
先に進むしか方法がないのである。
歩きの時は足が竦んでもうずくまれば良いが車の中ではそうはいかない。
ひたすらアクセルとブレーキ、ハンドルが連係して操作することに心がけて
いかねばならない。
恐怖心に負けて足がすくむとこの三者の動作がバラバラになるのである。
よく断崖から転落する車の事故があるがそれは恐らくこの例であると私は
思う。
その様子の一部を次の写真に示す。上部にかすかに見える道が通ってきた
道である。車一台がやっとの道であった。


ガードレールは無い。右側は崖。覗かないほうが良い。


道路もいつ崩れるか分からない状況だ。端には行かない方が良い。

この渓流が流れている谷間はある信仰の地で昔はここまで参詣の人がこの
へんまで来たそうだがよくぞこんな山の中にまでと感嘆してしまう。
この谷間もダムの水嵩が増えると埋まってしまうのかが心配である。


幸いに対向車が一台もなかった。ひたすら進むとようやくダムの一部が見えてきた。
ここまで来ればあともう少しである。

これが木地山ダムである。
山形県人でもこのダムを見た人は非常に少ない。
それにしてもこんな秘境の山の中にどのようにして資材を運び建造したのだろうか。
ここまでの道はトラックなんかは通れないぞ。とにかく昔の人は偉かったとつくづく
頭が下がる。
ある工事関係の人にこれからもこのような厳しい奥地のダム建設は出来るのかと聞くと
無理じゃないかと言う。このような工事は熟達した職人集団が一家をなして全国を渡り
歩きながら建設に携わってきたから出来たのであって現在のように造る物件が連続して
生じない状況下ではその都度労働者を集めなければならない。そんな寄せ集め集団で
造れる分けがない。なにしろ働いてくれる若い者はいないよと語っていた。
そうだよなあ、日立市に行ったとき、水車タービン工場が巨大な廃屋のようになってガラン
となっていたのを思い出す。

木地山ダムの向こう側をみてみる。本来ならここからは東北のマッターホルンと言われる
祝瓶山(いわいがめやま)が眼前に見えるのだが今日は残念ながら雲で見えなかった。
それにしても人っ子一人いないシーンとした情景は不気味です。


さて、雨が降ってきた。みぞれになったら帰れなくなる。雪道用タイヤを履いていないし。
山の天候は急変する。これからあの道を帰るのかと思うと不安になる。
しかも帰りは車が断崖側だ。不安ばかりが頭をよぎるがスピードは絶対に出せない。
対向車の無いことを切に願って帰路を急いだ。
最後に長井ダムの完全な完成時の姿を紹介して締めくくりたいと思う。

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