電子機器の修理は技術研鑽の場 その実例紹介
FMチューナーのメモリー機能の復活 令和元年6月
長年使ってきたFMチューナーも頭がぼけてきて覚えさせた放送局と押しボタンの
関係がすっかり忘れるようになってきた。
下の写真はYAMAHAのFMチューナーである。音も良いし使いやすい。
捨てるのはもったいない。
さっそく蓋を開けてみた。各パーツを眺めながら不具合の原因となるポイントを
推測することを始めた。これが楽しいんだなぁ。
原因となるのはメモリー情報を記憶させるエネルギー源となるパーツの
不具合と断定した。
それがこの中央の緑色のパーツ、電気二重層コンデンサと断定して交換をした。
これが交換した新しい部品である。
以前の値は0.047Fだったが今回は1Fに交換した。
容量は約20倍だが寸法は1/2になっていた。
以上の修理手順でチューナーの記憶機能は回復した。人間の記憶機能も
このようにして戻せたらと思う。
それにしてもこのパーツを東京の通販会社から購入したのだが部品の価格
は200円だった。しかし送料手数料が648円とのこと。
何か深く考えこんでしまった。
アナログレコードプレーヤーの復活再生
平成14年9月のある日、DENON製のアナログレコードプレーヤーDP−60Mのダイレ
クト駆動の回転部が動作しなくなったので捨てたいがいらないかと言われた。
DP−60Mと言えば往時(1976年頃が全盛)の名品でないか。聞くと全然使っていなく、
しばらくぶりで電源を入れたらバチッと音がして煙が出、そして動かなくなったとのこと。
私は現在同じDENON製のDP−3000とSONYのPS−4300を使っているので
不要なのだが、捨てると言われると修理に挑戦し動作させたくなるのが私の性格。即座に
必要だと答え受け入れた。(3台もどうするのだとの家族の冷たい視線を感じる)
その修理前の様子を次の写真に示します。まだまだ綺麗で、外観上は一級品である。
なんとか修理して、復活させたいという気持ちが更に強くなった。
余談だが私は以前はオーディオに熱心だった時期があった。(昭和50年〜60年頃)
しかし、段々とオーディオも狂気と神懸かりの世界になり、本当に愛していた人たちは手を
引くようになってしまった。これが現在のオーディオ不況の原因の一つである。
何しろカーボン抵抗や電線にも向きがあり、電流を流す方向で音が変わるなどと言われると
とてもついて行けないという気持ちになる。
もしそれが本当なら生産するメーカー側にとって部品の組み合わせ選択肢が無限に拡大され
ることになり設計製造なんか出来なくなるのだが。(聞くところによると部品メーカーはそんな
ことは考えていないとのこと。当然でしょう)
レコードは音が悪い?
私は 否と答えます。たしかにレコードは雑音(主に針音)はするが、多くの情報をたっぷり含んでいる。
私はCDの音で音楽をじっくりと楽しめない。それは音に厚み、重さが感じられないからです。
グーンという音場全体を包む何とも言えない圧迫感等はCDにはありません。CDの音は、きめ細かく、
軽くさわやかです。しかし、先ほど述べた空間を覆う重い空気の層を作ることを忘れています。
しかしCDは使い易いという点では否定のしようはありません。
私が以上のことを言いますと、「それはCDに高価なものを使っていないからだ。20万円以上出さないと
駄目なのだ」という方がいますが、それはCDが負けちゃったことを証明する意見だと思います。だって
アナログレコードの音を拾う心臓部は僅か10グラム台の親指のような小さく軽いカートリッジという部品です。
カートリッジの構造は単純、価格も2万円前後しかしないのですよ。20万円出してようやくレコードに匹敵
するのでは勝負になりません。
音の良いオーディオ機器は?
私が今まで使った音響機器の中で最も音が良いと感じたのは、2トラック38センチのオーブンテープ
レコーダでした。とにかくこいつは音の伸び、厚み、重さ等を全て含んでおり当時の録音のマスター機器
として使われたのは当然でした。
アナログレコードはその次に良い音がしました。残念ながら2トラ38センチはコスト的には合わず一般
化しませんでしたが、私は今も時折動かし楽しんでおります。
近年、レコードの良さが再認識されていると聞き喜んでいます。でも、今安く入手出来るレコードが
(一部はとても高価ですが)購入者が増えて高くなるのは嫌だなとも思っています。
さて、皆さんに知っていて貰いたいことは、アナログレコードプレーヤーの人気が再び出ていると
いうことです。
修理の実際
では修理をどのようにしたのか一部を紹介します。
最初にモーター部を取り外した所が次の写真です。
プレーヤーの中はこのようになっています。全体をじっくりと眺めながら作戦を立てます。
まず、あやしい部品からチェックをしていきます。するとなんと大事なトランスの1次側が
断線し、更に2次側の+10V側がややショート気味です。これでは電源やテーブル回転
の制御部も相当にやられていると見当を付けました。
とにかくトランスを交換しなければなりません。しかし25年位前の製品の部品などあるわけが
ない。そこで左側に見えるように大きいが特性の似ている手持ちのトランスに交換します。
その結果が次の写真ですが、左が新しいトランス、右が故障品です。大きいがこれで行くしか
手段がありません。
これでまずトランスの問題が解決しました。
次は、いよいよ回路の中に入ります。このような時に第一に怪しい部分はドライブ素子です。
モーターはインダクションモーターで、2相のAC100Vで大きな駆動電流が流れます。
ここをチェックします。
やはりここのドライブ素子のトランジスタのエミッタとコレクタが突き抜けて0オームです。
ところがこの素子サンケン2SC2023は当然にありません。何しろ400V,2A,40W,
hfe=100の性能を実現しなければならないが、このような素子は現在でも入手が困難です
(当時よくあったものです)。しかたがないから手持ちの中からNEC 2SC2749に置き換えます。
こちらは 500V,10A,100Wという過剰性能ですが仕方ありません。
その様子が次の写真です。
上の写真の真ん中上の部分で四角いキャラメル状のものがドライブトランジスタです。
左が交換後、右が交換前の製品です。大分大きさに差がありますが強引にセットします。
余裕は交換後がはるかに大きくなりました。
このトランジスタが破壊しているということは、その前段のトランジスタも怪しいぞ!というわけで
チェックをすると破損していました。これも手持ちの似ている性能の2SC1321Aで代用します。
私の押入と机にはこのような電子部品が山ほど溜まっており、他人はゴミだと言いますが、
どっこい生かせば全て宝物ですね。
チェックした結果、破損品はここまでと分かり、もう一度部品を丁寧に再組み込みします。
特にトランジスタ関係は放熱用のシリコングリースを再塗布しておくことが大切です。
放熱がスムースにきちんと処置しておくと性能を長期間維持できます。
以上交換した部品を次の写真に示します。
再組み立てをした様子が次の写真です。
キャビネットに収納し装置として組み込んだ様子が次の写真です。
さて、以上が私のアナログプレーヤー(近年はレコードプレーヤーと言わずにアナログプレーヤー
と呼んでいるようだ)の修理顛末です。
実は私の修理歴は長く、アンプ、チューナー、カセットテープコーダー、コンピュータ等の電子
機器の修理を趣味としています。
このように修理を長くやっていて感じたことをのべます。
@修理には幅広い知識がないと出来ない。
A知識だけでは修理が出来ない。どうなっているのか。こうなっているから動かないのでないだ
ろうかと想像出来る力、推察力がないと出来ない。
Bメカニズムという独特の世界の理解がないと分解も出来ない。特にテープレコーダ関係。
C無い部品は作るという根性がないと出来ない。
Dとにかく理屈では修理は出来ない
現在、理論ばかりの世界となり使い捨ての時代となっています。
昔はとことん修理して使いました。そして修理することで構造や仕組みが分かり、
物創りに役立ったのです。
今の世相のように使い捨ての時代となると日本の将来は心配です。
どうか皆さん、修理を試みてください。そして多くの知識を学んでください。
工業高校ではこのようなことを授業に取り入れるべきです。
最後に修理品についてアドバイスします。
近年中古品を販売してくれる店が出て喜んでいます。ハードオフという名前です。
ここにいくと1000円位であらゆる機器が売られています。これらは動作しないものも
含まれています。出来るだけ動作しないものを買ってきて(運良く動作すれば使えば良い)
修復に励むと良いですよ。
私のような人間が一人でも多くなることを望んでいます。