<とっておき>

山本周五郎「野分」


お隣鶴岡は、藤沢周平の出身で、海坂藩のモデルということもあり、映画の舞台にもなっていますね。
江戸時代の武士、浪人をテーマにした映画では、故黒澤明監督が有名で、2007年は織田裕二さんが主演で黒澤明監督の傑作時代劇「椿三十郎」がリメイクされました。
この黒澤明監督が、亡くなる寸前まで映画化実現を望んでいたということから、その遺志をついで製作されたのが、山本周五郎の「雨あがる」という短編小説を基に脚色した作品です。
ご存知の方、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

お話はここからです。

この「雨あがる」という山本周五郎の短編は、新潮文庫「おごそかな渇き」に収められています。
そして、この「おごそかな渇き」の中にある、「雨あがる」の作品のひとつ手前の作品が「野分」という作品です。

この「野分」は、山本周五郎の「武家もの」に属する作品で、実に切ない物語です。
おおまかにストーリーを説明すると、大名の庶子に生まれながら、情勢の変化により跡継ぎに座らせられる若殿と、職人気質(かたぎ)の祖父と二人暮らしの下町の娘との恋が、身分の違いによって実を結ばずに終わってしまうという、心切なく胸打つ作品です。
あらすじだけではわからない、切々とした思いは、最後の最後まで読んでみて欲しいと思うのですが、なぜ、私がこの作品をここで紹介しているか、ということです。

実はこの若殿、名を又三郎といいますが、「出羽の国新庄藩」の侍で、父は物頭を勤める楢岡兵庫といい、その二男として育ちますが、実は藩主「能登守(のとのかみ)戸沢正たか」の庶子なのです。
庶子とは、日本の武家社会においては嫡男以外、家督相続権のない男子をこう呼ぶことがありました。
作品中、「戸沢家六万八千石の社稷を守るため」ともあります。

山本周五郎の作品は大好きで、ほとんどの文庫を持っているのですが、この「おごそかな渇き」という文庫は私にとっては、特別な文庫です。


新庄ブルース