山の自然を守るため


4. 山形県八幡町 南麓開発スキー場計画
     ゴンドラ 全長3,500m   その2



 1984(S59)に八幡町にスキー場構想が持ち上がってから9年。町当局はあくまで環境アセスメントや県の自然環境保全審議会の「開発許可」を求める姿勢にこだわり、また事業主体である国土計画は鳥海山にかかる商号登記を済ませるなど緊迫した時期をむかえていた。
 数年前より鳥海山にイヌワシらしき大型猛禽類が飛翔しているという事実が確認されており、守る会としてその調査を県に働きかけていた。 鳥類の専門家を含めた山形県、八幡町、日本山岳会、守る会の合同で「第1次イヌワシ調査」がはじまった。
 1993年10月14日、ようやくその調査の日が実現した。 そこで調査に鳥海山に登った人たちは一様に目を見張った。 「こんなにいるのか…!」と洩らす人たちの目になんと4羽のイヌワシが悠然と飛翔している姿があったのである。
 スキー場予定地をまるで抗議するかのように悠然と舞うイヌワシ生息確認は、これ以後スキー場開発問題を大きく動かすことになる。 


1993(H05)  10月、第1次イヌワシ調査が行われる。3カ所に分かれての観測定点にて4羽のイヌワシを確認。成鳥2羽と幼鳥2羽でスキー場建設予定地に頻繁に飛来しているため、この周辺が「高頻度利用地域」と思われた。今後は営巣地の確認が重要になってきた。
10月、イヌワシ確認を受けて、高橋県知事は定例記者会見で「慎重姿勢」を示す。
11月、山形県副知事との会談、席上山形県知事への「要望書」提出。
  1.スキー場予定地上部には貴重な「矮小ブナ林」があり東北でも希
    にしか見られない貴重な自然林なので伐採は容認出来ない。
  2.イヌワシの幼鳥の確認により、繁殖行動とスキー場営業時期が重
    なるため、多大な悪影響を及ぼしてしまう。
  3.秋田県との鳥海山保護管理方針は遵守すべき。
  4.スキー場とのセットであるゴルフ場は、日向川などの庄内平野の河
    川の汚染の恐れもありマイナスイメージとなる。
11月、八幡町町内において全戸にチラシ配布。
12月、八幡町に第10次反対署名簿提出。累計6万3千人を越す。
12月、県知事と自然保護団体との21年ぶりの会談実現。イヌワシ問題の重要性を認識しているとのこと。
1994(H06) 1月、県自然保護課との協議。八幡町から「アセス最終案」の提出があってもすぐには受理せず、イヌワシもアセスの一つとして調査すべきで終わるまで受理はしない。
3月、日本山岳会の自然保護委員が現地視察。イヌワシは抱卵している可能性あり。
4月、県知事との2回目の交渉。 営巣地から3km以内の開発には問題あり
6月、八幡町は「環境アセスメント」の作成が完了し、8月には「県自然環境保全審議会」で提出すると言明する。
曰く「イヌワシの飛翔は確認されているが、営巣地はスキー場周辺には無いのではないか」   ……営巣地の確認もしないままに……
7月、建設予定地の矮小ブナの中で見つかっていた「鋭鋸歯葉ブナ」がブナの祖先に」あたる「ムカシブナ」に類似していることが判明する。
7月、八幡町「DEKAそう会」との会談。 「町民はスキー場を欲しがっている」の一点張りで貴重な動植物の保護のことなど眼中にないようである。
8月、八幡町、県に「環境アセスメント」を提出済みと新聞報道。
結論は「イヌワシ調査の結果、周辺には営巣地はなかった」
1995(H07) 3月13日、「県自然環境保全審議会」の「自然公園部会」の委員17名に慎重に対応するように要望書提出。
3月28日、「県自然環境保全審議会」開催 
県側は、慎重審議を求める意見に対して審議を2回でうち切り「3月中の結論」を急ぎ、誘導する。
全会一致で「スキー場計画は適当」と結論を出す。
 ただし、イヌワシとクマタカの営巣地調査と矮小ブナの調査をスキー場着工まで1年間かけて調査を行う。調査結果如何では事業決定の取り消しもあり得る。
4月4日、審議会大津高会長は事業決定を認める審議会の答申を知事に提出。
4月18日、知事は答申通りに鳥海国定公園スキー場事業を決定し、県公報で公示した。



 事業決定を行う審議会は、とうとう「スキー場は適当」との結論を出した。「建設予定地にはイヌワシの営巣地はない、環境への影響は少ない」との結論に対して、独自に学術調査を行っていた日本山岳会は「これで開発が認められたら、必ず禍根を残す」と語りアセスの内容をあまりに不十分と指摘した。

1年間の調査期間をおいての条件付きとはいえ、このままいけば1年半後には県は正式に事業決定を行うことになる。とかくこのような審議会は「委員の専門知識等の専門性」に疑問があり、事業主体主から出された環境アセスなどを審議するわけだが、審議会に諮問された案件で否決されたことなどはほとんど無いということだ。全く形骸化した審議会にある委員は「県が結論を急いでいることは、言葉の端々から分かったが、あそこまで露骨だと不愉快だった」の声すら出る。 


 4月22日県の事業決定からわずか4日後、日本山岳会を中心とする「イヌワシ調査グループ」は鳥海山のスキー場建設予定地周辺で、イヌワシの営巣地を発見。その巣の中に幼鳥1羽がいることも確認する

 地元の調査グループや日本山岳会などは早くからイヌワシの高頻度利用域を特定して、「営巣地の発見も近い」ので県に対して慎重な審議を求めていたものの、八幡町.コクドによる事業主体の環境アセスにそった審議のみで日本山岳会の独自資料の提供申し出すら拒否するというかたくなな姿勢だった。
今回事業決定からわずか4日で営巣地発見の事態に、コクド.八幡町の事業主アセスの信頼性への疑問符や県の結論を急ぎすぎる審議会の答申の妥当性にも疑問符がついたといえる。



1995(H07) 4月22日、イヌワシの営巣地を発見!
5月8日、知事はイヌワシの営巣地発見について定例記者会見において、前回4月におこなった「営巣地から3km以内の開発は問題」の発言をトーンダウン始める。
6月12日、知事は記者会見で「事業決定に変更はない、営巣地の存在を考慮した事業になるだろう」とあくまでもスキー場開発は「初めに建設ありき」のようだ。
6月21日、県は「山形県イヌワシ生息調査検討委員会」を設置する。
   調査期間は、1995年(H07)7月から1997年(H09)3月まで。事務局は山形県環境保険部自然保護課。調査受託者は東北緑化環境保全(株)。
 調査検討委員会の7人のメンバー(当時)は
   大津 高(東北芸術工科大学教授)座長
   小笠原 ・(秋田大学教授)
   由井 正敏(農林省森林総合研究所東北支所保護部長)
   関山 房兵(岩手県立博物館主任専門学芸員)
   大沢 八州男(日本野鳥の会山形県支部副支部長)
   角田 分(山形県野鳥愛護会委員)
   佐藤 淳志(日本山岳会自然保護委員会委員) 

 今後1年9ヶ月かけてイヌワシの行動圏、採餌行動、繁殖活動、周辺調査を行うこととなった。
9月18日、八幡町議会にて後藤町長は「平成10年にはオープンしたい」と発言。
10月16日、調査検討委は「鳥海山には少なくとも4つがいのイヌワシがいる」ことを報告する。 
1996(H08) 3月18日、第3回調査検討委は中間報告を出した。「昨年生まれた幼鳥が親離れ。標高1500m以上の飛翔が多かったが、積雪期に入り標高600m付近まで降りている。積雪期の鳥海山東側での採餌行動を注目している」等の報告あり。
 これに対して県自然保護課は「現段階ではスキー場予定地を横切る程度で頻度は少ない」などの立場を堅持。尚、中間報告は非公開とされた。
5月25日、今年もヒナ1羽確認する。これで数年連続で繁殖確認したことになり、全国的に繁殖率が低下している中で極めて貴重な営巣地といえる。全国で約300羽確認されている内で巣立つヒナは数羽から十数羽しかいない現状で、「鳥海山の営巣地は、イヌワシという種の保存の砦」と日本自然保護協会は話した。
8月9日、環境庁より「猛禽類保護の進め方」が刊行される。
9月、日本山岳会が中間報告書を環境庁に送付。12月〜2月はスキー場予定地の一部とその西側の地域が狩場にあたり、予定地の半分以上が「高頻度飛翔域」になっている。またヒナを育てる時期と巣立ちの時期などを含めて、予定地上空での飛翔は一年を通じて確認されている。
1997(H09) 1月、第5回調査検討委が開かれ、委員7人のうち5人がスキー場建設はイヌワシの生息に大いに影響があるとの見解を示す。
2月28日、県の環境保全審議会は鳥海山鶴間池周辺の鳥獣保護区を3倍に拡大する案を出したが、営巣地は含まれていたがなぜか営巣地から1.5kmのスキー場予定地は(故意に?)含まれていなかった。
3月10日、第6回調査検討委。7名中3名が欠席。出席委員4名中大津座長を除き、「影響は多大」を主張するも、県環境部長は「影響が少ないこと」を躍起となってごり押し。委員同士の検討ではなく県の部長との押し問答に終始した。
 調査員である東北緑化の担当者もあまりの県側の態度に「これまで各地の調査をしてきたが、これ程まで歪曲して結論を出そうとする県は始めてだ!」とあきれかえる。
3月21日、第7回調査検討委。県の態度に不信を持った委員5名は「初めに開発ありきの県の態度に、影響は多大とした意見が報告書にほとんど盛り込まれていない」として委員会をボイコットする。
 結局報告書は先送りとなるが、次回の日程すら決められない異常な事態となる。
4月16日、守る会は「県自然保護団体協議会」と直接環境庁及び林野庁に出向きイヌワシの保護とスキー場開発撤回の指導を要望する。新聞紙面もこの頃には地方面から社会面に移行する程の全国的な関心を呼ぶことになった。
5月29日、第8回調査検討委。委員会はやはり非公開で開催する事を決め、修正素案をもとに審議することとし、最終結論は次回以降となった。調査データすら公開せず、結論が出てからの情報公開では県民の意見が全く反映されず何にもならない。県側出席者の審議への介入する発言が多かった委員会が「影響は少ない」などと白を黒と言いふくめるような結論を出さないように監視する必要があった。
7月5日、第9回調査検討委。「スキー場はイヌワシの生息に影響がある」との結論をまとめた模様。
7月25日、調査検討委の最終会合。「スキー場予定地の西側にイヌワシの狩り場があり営巣地と結ぶ飛行ルートの半分がスキー場予定地にかかる高利用域であり面積では7割以上が行動圏と重なり影響は避けられない」との結論が出る。事実上の計画見直しとなり開発はほぼ不可能となった。
7月28日、八幡町長が記者会見にて「現行計画の見直し」の意向を示す。
7月30日、コクドは報道機関にFAXを送り、「スキー場計画は県と八幡町からの要請に基づいて調査をすすめたもので、自然保護は大切なことであり、支障があればスキー場はつくるべきではないと思います」とのコメントを発表する。事実上の撤退表明であった。

 鳥海山の自然を守る会は「事実上の撤退表明と受け止めた。自然保護を尊重したもので、コクドの英断を評価したい」
8月25日、八幡町にて計画推進団体と町議に対する状況報告会がある。一部議会議長や町議からはこういう事態になっても「高利用域も開発出来るように県に意見書を提出すべき」などのナンセンスな主張もあったが、周辺の地形を考えた場合、高地用域を避けた代案ではスキー場としての魅力は無く実現性を疑問視する声が多かった。
 守る会も「高利用域を外せば良いものではなく、代替3案に対しても付近一帯が貴重な自然保護の地域と見るべき」と疑問を提示。
9月4日、コクドを訪れて代案を示した八幡町に対して「代案はこれまでの計画とは全く別のもの。イヌワシの高利用域にはかかっていないが計画地は飛翔している。構想から13年の間に社会の自然保護に対する状況が大きく変わりました」と7月のコメントを繰り返す。
9月5日、前日のコクドとの会合を受けて、後藤町長は「コクドへの事業要請を白紙撤回をしたい」とのスキー場計画の断念を表明する。
高橋山形県知事  「やむを得ない措置、今後の地域振興に協力」
コクド公報課  「自然保護は大切であり、ごもっともな判断」
日本自然保護協会  「計画見直しの判断を導いた自然保護団体、行政関係者の努力に敬意を表したい」
鳥海山の自然を守る会  「計画は終わりを告げたと認識する。豊かな自然が破壊から免れたことを心から喜びたい。町はスキー場に固執することなく鳥海山の自然を生かした地域振興策を検討しつつ発展することを希望する」



 バブル経済に踊らされて全国的なリゾート開発の波が日本列島に押し寄せた頃に始まった鳥海山南麓スキー場開発計画は、バブル経済崩壊と自然保護に対する全国的な意識変革の前にあえなくついえた。
大手開発企業コクドの絶大な金と力、また県当局と八幡町の行政権力に対して、豊かな鳥海山の自然を守ろうと13年間も頑張り抜いた地元の守る会を先頭とした自然を愛する人たち、それに全国各地から寄せられた7万人を越える反対署名など、これら全てが計画の白紙撤回を勝ち取る力となった。
 また鳥海山を悠然と舞ったイヌワシや、森の王者クマタカの姿、鋭鋸歯葉ブナの分布確認など鳥海山の動植物たちも計画反対運動を大きく後押ししてくれた結果でした。

 以後、鳥海山ではイヌワシの生息調査をした日本山岳会自然保護委員会が行った調査データ.組織を継承する形で「鳥海山ワシタカ研究会」が発足し将来にわたり調査を続けて行くことになった。
 また八幡町はスキー場は白紙撤回したものの、イヌワシとの「共生策」としてイヌワシの「保護条例」を制定し保護対策協議会を設置した。またイヌワシを「町の鳥」としてシンボルデザインしたり、更には全国野鳥保護の集いを開催し、環境庁の「猛禽類保護センター」を誘致するなどイヌワシの町として発想を転換しつつある。

各地のスキー場を含むリゾート開発などが破綻をきたしている中で、ようやく今になって八幡町の中からも「あの時スキー場を作らなくて本当に良かった。計画通りにやっていたら今頃はどうなっていたか…」などの声が漏れ聞こえてくる現状である。

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鳥海山のイヌワシ保護について



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