耳に聞こえる懐かしい声
声を聞き
思うのはコレは夢だと思う
彼女はもう居ない
この声を聞くことが出来るのなら
もうしばらく、このまま起きたくないな
目覚めかけている意識を
無理矢理に夢の中へ
さっきよりも大きな声が聞こえる
肩を揺すられる感覚
身体に触れる温もり?
目が、開く
「漸くおきたわね」
呆れた顔をしたレインが居た

これは夢か?
それとも………?
ずっと昔死んだ筈のレインが居る
薄く成った記憶よりも年重ねた姿
忙しそうに動きながらレインが話す声
覚えていたのと少し違う声
「そういやさ、他のやつらはどうした?」
子供達は?
言葉を飲み込み置き換える
コレが夢なのか
現実なのか
ラグナが知る世界とどこ迄違うのか
判断は何もついていない
「子供達ならもうすぐ帰ってくるわ」
何でもない様に伝えられる言葉にほっとする
ここでは“家族”がかける事無く揃っている
「キロスさん達も来るんでしょう?」
ラグナが答を知ってる筈がない
コレが夢ならば、望む通りの夢が見たいな
ここがどこか違う世界だっていうのなら………
「………ああ」
レインが聞くなら、きっと“俺”は誘ったんだろう
誘われてキロスが遠慮なんかする筈が無いよな
だから大丈夫だと、そう答える
「本当?」
感情の奥まで見通そうとする様に、じっと見つめる目
―――あの時もこうやって見つめられた
遠い昔の記憶
後悔と共に思い出すレインの眼差し
「ま、いいわ」
レインが肩を竦めて背を向ける
とっさに伸びた手が腕をつかむ
「どうかした?」
レインが不思議そうに首を傾げる
これが夢だったとしても
あったかも知れない世界
暖かく華奢な腕から手をゆっくりと離す
「………なあ、幸せか?」
何故かこぼれ落ちた言葉
レインが驚いた様に目を見開いて
そして穏やかに笑った

ふっと意識が戻る
雑然としたいつもの書斎
見慣れた光景
―――そういえば“あそこ”は綺麗に片づいていたな
息を吐き出すのと同時にふとそんな事を思い出す

扉の外から、ラグナを呼ぶ声が聞こえた


後悔は、あなたの元へ戻らなかったこと