『あんたは、何をしてあげるんだい?』
そう言って、好奇に満ちた目が向けられた

始めて知ったこの地に存在する慣習
「なんだい、知らなかったのい?」
聞き返せば、いささか大袈裟とも言える程の反応を返される
「そうかい、それじゃあ責任持って教えてあげないとね」
断る間もなく喜々として話す話を聞かされ続けた
長い話の末、その日がいったい何の日であるのかようやく判明した
……聞かなきゃ良かったぜ
大人しく話に付き合った事を後悔すると、追い打ちを掛けるかの様に
「それで、あんたはどれにするんだい?」
店主の声と共にカウンターの上に幾多の商品が並べられた
「さ、どれもお勧めだよ」
満面の笑顔で続けられた言葉に、逃げ出す訳にも行かなくなり
………今日は厄日か?
諦めと同時に、密かに天を仰いだ

良く廻る口が、幾つもある品物を次々と勧める
「実際に見て貰った方が早いね」
めまぐるしく変わる展開に言葉を挟めずにいると、勝手に納得し、綺麗に施されたラッピングを躊躇なくはがして行く
「お、おい……」
「何気にしなくていいんだよ、また包み直せば良いんだからね」
先ほどから善良そのものの笑顔が幾度と無く向けられている

どこか疲れた足取りで、街を横切る手の中には、長い攻防戦の末押し付けられた小さな包みが一つ
『サービスだよ』
………負けたぜ
そんな感想が脳裏を過ぎる
商品を購入する事からは免れたが、結局持っていても仕方の無い物を押し付けられた
いつもの調子で無邪気に笑う顔が思い浮かぶ
小さな箱を宙へ放り、受け止める
箱の中身は自分には一生縁のない物
手の中にすっぽりと収まる箱を掌で転がす
これを渡した時の店主の下手なウインクを思い出す
「……ったく、しかたねぇなぁ」
渋々と言った感じで呟いた筈の言葉はどこか嬉しそうに聞こえた

いつもの時間、いつもの場所
中心に立つ、巨木へと寄りかかりながら、入り口を見つめる
姿が見えるよりも早く感じる気配
やがて、息を切らせて走り寄ってくる姿が見える
自分を見つけた彼女に顔に笑みが浮かぶ
―――この瞬間が好きだ―――
手の中の小さな箱に軽く握る
「よう、遅かったな」
いつもと同じように、アリオスは小さな笑みを浮かべた