海へと川の水が降り注いでいる
幾度か見たことのある、川と海とが交わる場所
同じように川と海とが交わる場所なのに、穏やかなその場所とは違った光景
エスタにはほとんど海岸が存在しない
海と陸を分けるのは断崖絶壁
………そんな事は知っていたけれど
エスタの川の終着点を目にするのは始めてで、まさかこんな風になっているなんて思っても居なかった
目の前に広がる川は、その姿を唐突に消していて海へと滝の様に降り注いでいる
「すごい迫力ね」
海の側の川の畔のホテル
ラグナに誘われたその場所は、事前に想像していたのとは全く違う景色
川の―――滝の―――近くは海から舞い上がる水が雨の様に降り注いでいる
とてもじゃないけれど側による事なんて出来はしない
全身がずぶぬれになるのは勿論、ヘタをすると足を滑らせて転んでしまう
「あんま近づくと危ないからな」
楽しそうなラグナの声に私は振り返る
少し離れてはいるけれど、手を伸ばせば届きそうな距離にラグナの姿
確かに危険
危険だけれど、もし何かが在ったらすぐに助けてくれる距離
「そうね。ここから墜ちたりしたら骨が折れるくらいじゃすまないわよね」
足を滑らせたらそのまま海まで一直線
そんな危険もありそうで、私は何気なくそう言ったのだけれど
私の言葉にラグナが大げさなほど後退ってみせる
「ちっと、それはシャレになんねー」
少し引きつった表情に、にぶい事に漸く私は思い出す
もう昔の事、始めての出会ったときの事
ラグナ曰く名誉の負傷
私達はお互いの顔を見合わせて大笑いする
一通り笑って、笑い収めて私は改めて海へと降り注ぐ川へと視線を向ける
ラグナが飛び込んだという崖
セントラ大陸にある断崖絶壁
私はその場所に行ったことは無い
話を聞いた限り、こんなに規模の大きく、高い場所でも無い
今居るこの場所よりはずっと危険の少ない場所
じっと見つめる川の先は、吸い込まれて行きそうな錯覚を覚える
「少し怖いわね」
呟いた言葉に、そっと背中に手が触れる
「………そろそろ戻らないか?」
問いかけるラグナの顔は少し不安そうに見える
「そうね、貴方が足を滑らせでもしたら大変ね」
にっこり笑って言った言葉に、明るい抗議の声
ラグナの抗議の言葉を受け流すふりをして、私はホテルへの道を辿る
―――ラグナが運ばれてきた時の事
もしかしたら、生きて出会うことはなかったのかも知れない、なんて
ほんの一瞬、思い浮かんだ
それは現実ではないし、このとんでもない景色には関係がない
でも、今の気分のままここに居るのは少し嫌だわ
隣に並んだラグナの声に安心しながら、私は思い浮かんだ光景を頭から締め出した

水のおちる音が聞こえる
強く激しい水の音
そして微かに聞こえる海の音
耳に聞こえる音に、何故かウィンヒルが思い浮かぶ
「ゼンゼン違うんだけどさ、なんか似てるだろ?」
夜の闇の中で聞こえてくる音
ウィンヒルの夜―――雨の夜と同じ音
「そうね、全く違うのに、同じだわ」
聞こえてくる音に、次第に昼間の光景が見えなくなっていく
「――――――」
ラグナが柔らかな笑みを浮かべて、耳元で言葉を囁いた