甘い匂いが充満していた

脳の奥までしみこむようなその香りにアリオスは眉をひそめた
「アリオスがアルコール好きなのは知ってるけどサ、やっぱり甘いモノは嫌い………みたいだネ」
この状況で好きそうに見える奴が居たらお目にかかって見たいぜ
「まぁ、嫌だろうけどもう少しがまんしてヨ」
アリオスの前に濃いブラックコーヒーを置き、ウインクを置きみやげに足早に立ち去る
「………仕方ねぇな」
自分が嫌いだからと言って否定する気は別に無い
ただ、この甘ったるい匂いが気に障るだけだ
アリオスはコーヒーを片手に大きく開け放たれた窓辺へと歩み寄る
「2時間もあれば充分だろ」
こんな甘い匂いのする場所に留まっている理由はない
アリオスは躊躇うことなく、窓の外へと身を滑らせた

「あ、いたいた」
アルコールの香りと芳ばしい香りが近づいてくる
「もう終わったヨ」
寝転がったアリオスの顔をレイチェルが覗き込んで来る
「そりゃご苦労さん」
自分よりはよほどましだろうが、レイチェルも甘いモノが好物という訳じゃない
通常の何倍も甘ったるいあの中にいるのは嬉しい事じゃなかっただろう
「ま、別に嫌いじゃないしネ」
身を起こしたアリオスの目の前に大皿が一枚差し出される
「差し入れだってサ」
皿の上には幾つかの焼き菓子
「甘さ控えめ、アルコールはたっぷり、間違いなくアナタ向けだヨ」
「ま、悪くは無いんじゃないか」
きついアルコールの味が舌に染み込む
「こんなのが美味しく食べられるのアナタぐらいだとは思うけどね」
アリオスが食べるのを見届けて、1つ口の中に入れたレイチェルが眉をしかめながら呟いた
「ま、とにかく、匂いが完全に消えるにはもう少し時間がかかるから、ワタシとここでお茶でもしててってサ」
「お前とぉ?」
いつもの軽口の応酬を重ねながらレイチェルが持ち込んだポットを空ける
「良い天気だよネ」
風が甘い匂いを運んできた