エスタの新年は派手に始まる
あちらこちらで上がる歓声
道沿いや家々に灯された無数のイルミネーション
地上はまるで昼のような明るさ
見上げた空は暗く、幾つもの星の姿が輝く
そして、空を彩る大輪の花火
光と闇の間に炎が散る
夜明けまで続く祝い事
長い間続く変わらない光景

エスタの行事は大概派手だ
幾度か遭遇するたびに実感を深めていたが………
スコールは目の前で繰り広げられる馬鹿騒ぎの数々に眉根を寄せる
そこら中に取り付けられた灯りの数々
目に痛い程の強い灯りは、遠目に見れば綺麗に見えるかもしれないがこの距離では飾りにはとても見えない
地上だけが真昼の様な錯覚に陥る
その上、
あたりに溢れる人の姿
小さな子供から年寄りまで、様々な人の姿が見える
いったい何処から湧いて出てきた
エスタの街の中で見かける人はそれほど多くはない
けれど、今ばかりは広いはずの道路は人で混雑している
他国からの観光客が居るとしても此処まで混雑するとは思えない、思えないんだが………
子供が歓声を上げて駆け抜けていく
あちらこちらで見かける小さなイベント
街角から流れてくる歌詞が理解できない歌
一年の幸を願い祈る言葉の数々
陽気に交わされる言葉
誰にでも振る舞われる飲み物
民家の庭先に用意された食べ物の数々
時折街の人々に捕まりながら、スコールはエスタの街を急いだ

「伝説だか伝承だか、そういった奴に基づいた伝統行事らしいぜ」
年も明けきった昼間、ようやく帰宅したラグナが疲れた風情でソファーに身体を投げ出している
伝統行事?
「灯りを灯し続ける事によって闇を払うだったか、闇が降ってくるのを防ぐだったか…………」
自然と視線は外へと流れるが、今は当然灯りはついては居ない
「ついでに花火は、闇と光の闘いの火花とか………」
なんの行事なんだ?
「実際の所、昔からある行事ってだけで詳しいことを知ってる奴いないんだよなぁ」
……………
「俺に文句言ったって仕方ないぞ?」
力の抜けた声が言った

辺りを飾っていた灯りが外される
地上へと真昼の明るさを呼び込む1夜だけの仕掛け
人々は、1年の幸を願って行事を繰り返す
詳しい謂われは忘れられたとしても祈る思いは同じ

そして、明るい太陽の下
街や人々は眠りについた
 

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