記憶
〜遠い昔の日々〜


 
昔の話をしましょう?
まだ、若かった頃の話
精一杯背伸びをして生きていた頃の話

小さな部屋で、そう言ったのは誰?

近頃、ふと思い出すのは
知らないはずの家族の姿
知らないはずの家族の会話
それは、忘れていた記憶なのかもしれない
けれど、ただの幻想なのかもしれない
幸せだったかもしれない過去
幸せな現在
血塗られた過去があって、それがなくなる訳ではないけれど
大切なのは、今
そして、これから先の未来
顔を上げ、先を見つめる私を呼ぶ声がする
振り返っても誰もいない
耳を澄ませても聞こえるのは風の音
聞こえたのは幻聴?
立ちつくす私を呼ぶ声がもう一度
「セリス?」
現実の声
そして、心配そうに覗き込む顔
「なんでもないから」
そう言って私は笑いかける
「本当に大丈夫か?」
重ねられる問いかけの言葉
私を心配する言葉
ほんの些細な事で、私は幸せな気分になる
不意にオーバーラップするように一つの光景が思い浮かぶ
私を心配そうに見つめている人
あなたは、誰?
私は、現実に微笑みかけながら、過去に問いかける
幸せな時間と幸せだった時間
近頃思い出すのは、幸せな時間を過ごしているから?
それなら、このまま幸せな時間が続けば思い出すことができるのかもしれない
それが、私の幻想だとしても……
幸せだったはずの過去
優しい時間が存在した事を信じていたい

腰掛けた椅子のきしむ音

ずいぶん昔の話
私達が、まだ若かった頃の事
お前が私位の年に成ったら、誰とどんな話をしてるんだろうね?

それは、遠い昔私を膝の上に乗せた祖母の言葉

 
END