雨の日に


 
突如降り始めた雨に人々は足早に走り去った
人気の無い裏通りをゆっくりと歩いていた
降り注ぐ雨が、息苦しい程だった人の気配を洗い流して行く
いつもは足早に通り過ぎる街並が違ったものに見える

いつもは通る事のない道、在ることさえも知らなかった公園
人気の無いその場所に足を踏み入れたのは偶然
木の葉に当たる雨音だけが耳に聞こえてくる
ゆっくりと歩みを進める中、微かに生き物の気配を感じた
低い木の下で雨を避ける様に子犬がいた
何かを待つように、じっと宙を見つめる瞳
その姿に自然に足が止まる
視線に気付いた様に、子犬がゆっくりとこちらを見た
警戒している様でもなく
近づいて来る様子もなく
視界の中で、不思議そうに首を傾げる姿が見える
躊躇いながら、そっと足を踏み出す
子犬は、座ったままじっと見つめている
「私と一緒に来る?」
そっと伸ばした手に擦り寄ってきた子犬にそっと問いかける
雨に濡れた身体
静かに抱き上げると、安心したように腕の中に顔を埋める
触れあった場所から、温もりが広がっていく
微かな温もりに、ふと安堵を覚えた

激しい雨が降り続く中、腕の中の子犬を庇うように足早に歩く
先程と同じように、人の気配の無い街並み
腕の中から、鼓動を感じる
ほんの少しの差、子犬が側にいるだけ
それだけなのに、心の奥が暖かくなる
人の姿が無くなって、ほっとしていたはずだった
けれど、本当は…………
穏やかな気持ちを抱えて、ティナは家へと急ぎ戻った

激しい雨の日に子犬を拾った
そして今、私の側で子犬が眠っている

END