夏の日射しに吹く風


 
じりじりと焼き付くような夏の日射し
額に滲む汗を拭いながら空を見上げる
眼に映るのは、雲一つ無い空
両手に汲んできたばかりの水を持って、家へと続く坂道を上る
桶の中で弾む水が手に触れる
冷たく心地よい感触

早朝の見張りから帰宅して
一眠りのつもりで寝ころんだのが、朝食の頃
身体にまとわりつく熱気に目覚めた今は
空高く太陽が昇ったお昼
汗をかいた後の気持ち悪い感触、身体を清める為に家を出る
夏の暑さの中必要な水を汲みに行く作業は大変だから
なるべく貯めて置いた水は使わないように
ゆっくりと坂道を下った

「セリス」
掛けられる声と、すぐ側に落ちる人影
足元を見ていた顔を上げれば、予想通りの人の姿
「……水汲みに行ってたのか?」
何か難しい顔をしたロックが手を伸ばしセリスの手から桶を受け取る
「ええ、天気も良いし今の内にと思って」
今の時期は水もすぐに無くなるから
小さく続けた言葉に、ロックは微かな声で同意を示す
夏の暑さの中では、水は使った分だけ減るのではなくて、暑さで蒸発した分がどんどん減っていってしまう
少し早足で今来た道を戻っていくロックの後をセリスはゆっくりとついていく

じりじりと照りつける太陽がさらに汗を誘う
ほんの僅か歩いただけで吹き出して来る汗を拭いながら少し早足で丘を下る
中程にゆっくりとした足取りで登ってくるセリスの姿
手に持った桶の中で水が揺れているのが見えた
「……水汲みに行ってたのか?」
暑い中の力仕事でびっしょりと汗をかいたセリスの姿
朝帰ってくるときに汲んでくれば良かった
無言で受け取った桶を手に、今来た道を戻る
ほんの少しの間をおいて、すぐ後ろをセリスがついてくる気配がする

すぐ側で聞こえる水音
心地よい無言の時間
額の汗をぬぐい顔を上げると、涼しい風が吹いて来た
 

END