優しい記念日
(SideA)


 
「僕、もうすぐ誕生日なんだ」
お昼を取りながら、アーヴァインは期待を込めてさりげなく、セルフィに告げた
「そうなんだぁ〜もうすぐ冬だよね」
にっこりと笑ってセルフィが答える
「セルフィは、夏だもんね」
「そうそう、よくぴったりって言われるだよ」
「本当にぴったりだよ」
夏はセルフィに似合う季節だと思う
セルフィとの雑談に夢中になり、アーヴァインが、当初の目的を果たしていない事に気づいたのは、その日も終わろうとする頃だった

「アーヴァイン・キアニス、SeeDとしての任務を命じます」
シドから命令書が手渡される
アーヴァインは緊張した面持ちで、命令書を受け取った
……あんまり手荒な事じゃないと良いな……
「…と、言いましても、今回の任務はバラムガーデンからの依頼になります」
ガーデンからの依頼?
やだなぁ〜、ガーデンの仕事って、面倒なのが多いんだよね
「それで、内容ですが………」
アーヴァインの気持ちにはお構いなしに、シドの言葉は続いていく
「………ということで、まずエスタで大統領に会って下さい…………」
仕事の内容を選べないのがつらい所だよね
エスタの大統領……
セルフィ、なんていうかな
羨ましがるかな?
一緒に行くとか言い出したりするかな?
セルフィが、ラグナのファンなのはガーデンでは周知の事実になっている
ファン、なんだよね………
「……では、よろしくお願いしますよ」
話が終わった
「はい」
あんまり話し聞いてなかったけど、問題ないよね
命令書をしっかりと握ってアーヴァインは、退室した

アーヴァインは一緒に来たセルフィと、学食の入り口でちょうど会ったゼルと一緒に少し遅い食事をとっていた
「セルフィ、荷物持っていくっていってるけど、準備できた?」
セルフィの友人が、入り口から、両手を振りながら、セルフィに声を掛ける
「ええ、もうそんな時間?」
食べていた昼食も途中に、セルフィが勢いよく立ち上がる
「荷物ってなに〜?」
肝心な話の途中で、中座使用とするセルフィに、アーヴァインは、慌てて声を掛ける
「内緒だよ」
満面の笑顔で答えると、セルフィは友人を連れて走り去っていった
セルフィの席には、食べかけの昼食が寂しく残っている
エスタに行く事言いそびれちゃったな
食堂がら、出ていくセルフィの姿を見つめる
追いかけて行って、話をするのもなんか悔しいし
「……なんだったんだ?」
呆然とセルフィを見ていたゼルが、アーヴァインへと向き直る
「なんだろーね〜」
そんな事、僕が知るわけないだろ
気のない返事をゼルに返し、アーヴァインは、料理を口へと運んだ

「セルフィも一緒なんだ?」
エスタへ出発しようとしたアーヴァインを呼び止めたのは、スコールと、セルフィだった
「あ、今嫌がった?」
アーヴァインとは別の用事をセルフィも持ってる、らしい
「そんな事無いよ、セルフィと一緒でとっても嬉しいよ」
仕事も一緒だったら、楽しかっただろうな
命令書には、アーヴァインの名前しか書いて無かった事を考えれば、セルフィとは確実に仕事の内容が違うのだろう
「本当に?」
疑うように、首を傾げて、アーヴァインを見上げる
あ、可愛い……
「本当だよ!」
自然と答えに力が籠もる
「それじゃ、いこっか?」
セルフィが先に立って歩き出す
「あ!」
釣られるように歩き出した、アーヴァインを置いて、突然セルフィが引き返す
「スコール!」
スコールが立ち止まる、追いついたセルフィが、話をしている
……何話してんだろ?
「セルフィ、先にいっちゃうよ?」
「ちょっと待って」
スコールと、もう一言言葉を交わして、セルフィが戻ってくる
「何、話してたの?」
「え?ちょっと、確認してただけやよ?」
慌てた様なセルフィの言葉
「……………」
セルフィって、嘘がつけないよね……

辺りに、銃声が響く
アーヴァィンはエスタ到着後、セルフィと別れて科学者達と共に銃器の確認をしていた
命じられた任務は、注文した銃器類の状態を確認する事
どういう課程があったか、詳しい事は解らないが、先の戦いで消費した、銃器の補充をガーデンでは、エスタに依頼したらしい
「ん〜、これはちょっと軽いかな?」
アーヴァィンは、求めに従い、エスタ側が用意した銃器を次々と試して行く
「なるほど……では、それは、もう少し重くしてみましょう」
アーヴァインの言葉を聞いて、科学者達が忙しく立ち動く
「あんまり重くしたらダメだよ」
実際に銃を使う者にしかわからない位の微妙な差
ただ、作るだけの人間には、調整するのも難しいはず
彼等は、心得ているとでも言うように、力強く頷き調整に入る
ほんとに大丈夫かな?
自身ありげな姿にも、アーヴァインは不安を拭い去れない
彼等の後ろ姿から、視線を外し、気を取り直して銃を取り上げ、構える
「調子はどうだ?」
背後から聞こえた、明るい声
「うわっ」
照準が狂う
弾丸があらぬ方向へと飛んで行く
悲鳴が上がった
「………すごい威力だな……」
撃ち抜かれた資材が崩れ落ちる音に重なって、背後からのんびりとした声が聞こえる
振り返った視線の先には、ラグナが立っていた
「……大統領」
「ちょっと、バランス狂ってるんじゃないか?」
「いや、僕がミスしただけだから……」
声に驚いた、とか、言えないよね
「ほんとにそれだけなら良いけどよ」
ラグナは、科学者の手から資料を取り上げる
「あの、セルフィは………」
エスタについてすぐに、ラグナと共に去っていったセルフィの姿が見えない
「うん?」
あ、思わず聞いちゃった
セルフィも仕事で来ているんだから、仕事中に決まってるじゃないか
ラグナは、アーヴァインの顔を見て楽しそうに笑った
「心配しなくても、ちゃんとやることしてるって」
……含みがある気がするのって、気のせいかな?
ラグナは、科学者達の説明を受け、何かを話している
ちょっと、格好いいかも……
まじめに仕事をする姿に、セルフィがあこがれるのも解る様な気がした
って、納得なんかしたらダメじゃないか
ラグナさんよりも格好良くなって、セルフィに認めて貰うんだ
「あの……」
「え?」
声を掛けられて、アーヴァインは慌てて振り返る
「実験の続きをお願いしたいのですが………」
準備を整え、サポートについていた、科学者の1人が困ったような顔をして、立ちつくしていた
「あっ、そうだね、すぐに始めるから」
アーヴァインは慌てて、試し撃ちを再開した

「あ、アーヴァイン、お仕事終わった?」
研究所を出たところで、セルフィが笑顔で待っていた
「うん、終わったよ、セルフィの方も終わったの?」
ほんの些細な事だけど、それだけでアーヴァインは嬉しくなる
「じゃ、帰ろっか?」
アーヴァインは、セルフィの言葉に驚いき、耳を疑う
「あれ?もう帰っちゃうの?」
せっかくエスタに来たからって言って、絶対寄り道すると思ったのに
「ちょっとね、今日は用事があるから」
大きく一歩足を踏み出し、勢いを付けて振り返る
「そうなんだ、ちょっと残念〜」
セルフィと、デートできるとおもったのにな
「私にかまわず、アーヴァインは、買い物してから帰ってくれば」
それじゃあ、意味が無いよ
悪気もなく、笑顔でのセルフィに、アーヴァインはなさけない気分になる
「1人じゃつまらないよ」
「じゃあ、帰る?」
少し位、ダメなのかな?
「用事があるなら仕方ないよね」
急ぎの仕事だったらどうしようもないし
なんか、最近良い事ないな……
アーヴァインは、セルフィに気づかれないように小さくため息をついた

真夜中、アーヴァインは眠れずに過ごしていた
何か、気に障る事でもしたかな?
遠くで物音が聞こえる
エスタから戻ってきてから、みんなの様子がおかしい
避けられてるよね
急がしそうに走り回っているセルフィはもちろん、他のみんなもよそよそしい
何もした覚えないんだけどな……
「気に障る事したかな〜」
いくらなんでも、みんないっぺんにって事はないと思うけど……
今日って、厄日なのかも……
突然、扉が激しく叩かれる
「アーヴァインいるか?召集掛かってるぞ」
続いて、僅かに声を潜めたゼルの声
ゼルらしいや……
ゼルにしてみれば、潜めた声は辺りに気を使ったつもりなんだろうけど……
「召集?こんな夜中に?」
……あんなに大きな音たてたら、近所迷惑だよね……
扉を開けると、ゼルの拳が目前に迫る
「わあっ」
反射的に後ろにのけぞり拳を交わす
「あ、悪い悪い」
バランスが取れずに倒れかけた所をゼルに腕を捕まれひきおこされた
「ゼル〜、気を付けてよ〜」
文句を言いながらも立ち上がり、扉を閉め、歩き出したゼルに続く
「で、召集っていったい何?」
「さぁ、なんだろーな」
ゼルの口元に笑みが浮かんでいる
「ゼル、何か知ってるだろ〜」
「い、いや、知らねぇ」
大慌てで、激しく否定する
……嘘の付けない人、多いよね……

扉を開けたアーヴァインを出迎えたのは、クラッカーと紙吹雪
「ええ!?何?」
驚くアーヴァインの背中をゼルが押す
「早く入れって」
笑顔のセルフィが、手を引く
「アーヴァイン、今日誕生日でしょ?」
え、誕生日って………
「ちゃんと、12時過ぎてるよ〜」
ええ!?
アーヴァインは驚いて、辺りを見渡し、セルフィへと視線を戻す
「おめでとう!」
満面の笑み、自然にアーヴァインにも笑みが浮かんだ

真夜中のパーティーが終わり、アーヴァインはセルフィと共に、星空の元に佇んでいた
「セルフィは、すごい事考えるよね〜」
「ちょっと、良い感じでしょ?」
「そうだね〜、でも、どうせなら、ふたりっきりってのも良かったかな?」
笑いに紛らわせて、本気の言葉を告げる
……こういうのも、まじめに言える様になりたいけど……
「また、そういう事ばっかり〜」
セルフィが呆れた様な、顔をする
「ま、いいか……」
アーヴァインの側をセルフィが通り過ぎていく
「あれ?もう帰っちゃ………」
「これ、プレゼントや!」
すれ違いざまに、セルフィが紙包みを押しつける
「え……」
アーヴァインは、セルフィの後ろ姿を呆然と見送った

アーヴァインは、大事そうに両手に持った帽子を被る
セルフィがくれたんだから、似合うに決まってるよね?
机の上には、セルフィお手製の人形
アーヴァインは、セルフィの顔を思い浮かべ、上機嫌で扉を開けた
 

 
END
 
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