冬支度


 
大きく季節が変わる時期に一つの行事が待っている

早朝、冷たい風が辺りを吹き抜け、気温がぐっと低くなった
もうそろそろ冬の気配が近づく季節
本格的な冬が訪れる前に、誰もが冬支度を急いでいた

物置の前で、大きなため息をつく
大きく開け放たれた扉
その中に積み上げられた品物の数々……
しみじみとその様子を見つめ、再び大きなため息をつく
煩雑に積み上げられたモノ
物置は……まさにモノオキと化していた
とにかくしまっておかなければならないモノを適当に押し込めた
この物置の惨状は、きっとそうだ
「いったいどこに何があるの?」
今ここにいない人物に向かって、エルオーネは何度目かの問いかけの言葉を発する
やっぱり別な日にしようか
脳裏をそんな言葉がよぎっていく
確かに寒くなったけど……耐えられないほどじゃないよね?
取り出すはずだった暖房器具はどこにあるのか検討もつかない
「……おじさんが休みの日か、人手のある時にしよう」
そうつぶやくと、もしかしたら見つからないか、という期待を込めて、物置の中を覗き込みながら扉を閉めた

「寒くなったな」
夜中、仕事を終え帰宅した、ラグナは物置の前に立っていた
最近なぜか仕事が忙しくなった
暇がとれないうちに季節は巡り……
「そろそろ冬だもんな」
いい加減どうにかしないとまずいよな
物置の扉を開け、中に踏み込んでいく
積み上げられた荷物の中、わずかに残った道筋
躊躇うことも戸惑うこともなく、その道筋をたどり、奥へと足を踏み入れていく
ゆっくりと歩みが止まる
「……確かこの辺だったよな?」
一見すると他と代わり映えのない場所
ラグナは、周囲を見渡し、足下に置かれた箱を脇へとどけた
「お、やっぱりあったな」
後ろからでてきたのは春先に慌てて押し込んだ暖房器具
「俺の記憶力も捨てたもんじゃないな」
ラグナは、楽しそうにそれを運び出した

翌日の朝、家の中を暖かい空気がゆっくりと流れていた
 

END