火種13
 

 
ようやくここまで………
その思いで真新しい建物を見上げる
まだ必要となる設備が揃っている訳では無い
まだまだ足りないものはあるが
最低限の施設と武器
そして数多くの軍人達が揃った
混乱した人事もようやく片が付いた
「さぁ、始めよう」
私の言葉に、幾人もの人がしっかりと頷いた

つけっぱなしのTVがニュース番組へと切り替わる
愛想の無いキャスターの顔が映し出され
「………え?」
画面に映し出された文字に疑問の声を上げる
「何?どうかした?」
声を聞き、TV画面へと向けられる複数の視線
「………………」
幾度か眼をまたたかせ、耳を向ける
「───本日バラム軍が正式に始動し───」
ニュース番組の中で強調するかのように幾度も繰り返される“バラム軍”という言葉
気がつけば辺りは静まり返り、ニュースの声だけが聞こえてくる
バラム軍?
バラムには軍隊は無いはずだわ
そう思いながらも、“本日”の言葉を耳が覚えている
解るのは、解ったのは
バラムが軍を所有したということ
なぜ今さら?
そう思うのと同時に
だからといってガーデンには影響は無い
そんな思い
「軍を作るなんて、思い切った事をしたわね」
創設したからと言って、すぐに使い物になる訳じゃ無いわ
「そうね、建物も設備もまだまだでしょうし、そもそも人手が足りないわね」
キスティスの言葉に賛同する言葉が幾つか上がる
「そんね、こんな短時間で戦える軍が出来るとは思えないわ」
ガーデンの候補生だって、何年もの間訓練を積んでようやく戦いに出る事ができるようになっている
多少、モンスターと戦える腕があったとしても、ただの一般人が“軍人”としてすぐにやっていけるとは思えない
もしかしたら、これからバラム軍から訓練を依頼されるかもしれないわね
騒がしくなった室内で、ニュース番組は終わっていた

初めての仕事を終えて、こっそりと息を吐き出す
1年前には、考えてもいなかった役割
「大丈夫だっただろうか?」
TVの取材クルーが施設内を出た事を確認して、思わず周りの人達へと言葉を向ければ、彼等もまたほっとした表情を浮かべていた

 End