遊技


 
「なぁ、面白いモノが出来たらしいんだけど、やってみないか?」
そんな誘いを受けたのは、数日前の事
内容を聞いて、やってみても良いかと思ったのは数時間前の事

巧妙に隠された気配
押し殺した呼吸
背後から聞こえる微かな物音
振り向きざまに引き金を引く
暗闇の中に浮かび上がる火花
両手の中に軽い振動が伝わる
突然、すぐ近くへと現れる気配
理解するよりも早く反応した身体が、避けた場所へ剣が振り下ろされる
体勢を立て直す時間は共に一瞬
距離を置くために大きく後退するのと同時に、距離を詰められる
幾度か同じ事を繰り返して
苛立たしげに鳴らされる舌打ちの音
焦ってる?
―――まさか、な
その気配も様子も、誘い込むための罠
大きく距離をあけ、銃を構えた所で突然気配が変わる
正面から感じる、突き刺さるような殺気
―――っ!?
冷たい鋼の気配が、眼前へと迫る
「―――っ、ちょっと待った!」
これ以上無いほどの至近距離で刃が止まった

「危うく大怪我をする所だったぜ」
明るい室内で、ラグナがぼやく
気が抜けて座り込んだラグナの側に、作り物の銃と剣が落ちている
「怪我はしないんじゃないのか」
偽物の戦場で、偽物の戦いを体感する、ただのゲーム
作り物の武器は怪我を負わせる事は出来ない
どこかの会社が開発した“おもちゃ”のふれこみ
「するだろ、アレは」
手に触れる感触も先程と変わらない刃が無いどころか、金属ですらない柔らかな物質
当たった所で、僅かな衝撃を感じるだけの筈だ
………当たり所が悪ければ、多少の怪我くらいはするかも知れない
どう考えても大げさでしかないラグナの言葉に、スコールは不機嫌に黙り込んだ

危険なのは道具ではなく、ソレを使った人間
一瞬浮かんだ殺気は、本気になった瞬間で
「持ってたのが新聞紙だって怪我してるよな」
強い気に包まれた、あの一瞬おもちゃは本物の武器へと変化した
本人は解って無いみたいだけどな
スコールの様子を思いだして、
「とりあえず、遊びでもスコールの相手はやめといた方が良さそうだな」
ラグナは苦笑を浮かべた
 

 End