ささやかな交流
 

 
じっとうずくまって海を見つめる
だんだんと辺りが暗くなっていく
もうすぐ暗くなる
もうすぐ夜になる
解っているけれど、動けない
僕は海をにらんだまま、膝を抱えて座っていた

周りが暗くなっていく
だんだん寒くなってきた
もう、帰りたい
でも………
帰りたくない
………帰れない
僕の話をちゃんと聞いてくれるまで………
僕を認めてくれるまで帰れない
握りしめた手に力を入れて、ぎっ、と暗くなる海をにらみつけたその時
「こんなとこで何やってんだ?」
大人の男の人の声が聞こえた

ふらっと立ち寄った
夕闇に包まれる海岸
見え難い景色の中に座り込む小さな影が見えた
辺りを見渡したが、他に人影は無い
何かの用事で側を離れているだけかも知れないが………
なんとなく気になり足を止め小さな背中を見つめる
5分過ぎ
10分過ぎ
微動だにしない背中に近づく影は無い
少なくとも迷子じゃないみたいだけどな
子供の背中は、慌てた様子も不安そうな様子もあまり見えない
「きっと地元の子供なんだろうが………」
この辺りの子供なら、遅くなればそのうち家族が探しに来る
そう思いながらも子供の元へと足を進める
背後からでも解る握りしめた手
強ばった体
側に近づくにつれ、子供の様子が見える
こりゃ、喧嘩でもしたか?
あいにく小さな『子供』と喧嘩をしたことは無い
だが、遙か遠いかすかな記憶に『親』との喧嘩の記憶が残っている
大人からすれば些細な事
けれど子供に取ってはとても重要な事
稚拙で、真剣で、子供なりにいろんな事を考えていた遠い昔
「こんなとこで何やってんだ?」
小さな背中に向かって声を掛ける
声に驚いただろう背中が大きく震えた

「僕だってちゃんと考えてるのに、ろくに話も聞いてくれないんだっ」
なんでここにいるのか、何があったのか、そんな事をいっぱい話して最後にそうどなりつける
おじさんは父さんや母さんと違って僕の言葉を否定しないでただ黙って話を聞いてくれる
「そうだなぁ………」
大きな手が僕の頭を撫でる
言葉を否定されないから、僕は言えなかった事、言わなかったことを口にする
「僕は、皆を守りたいって、そう思って───」
SeeDになりたい
バラムガーデンに入りたい
そう言ったとたん
絶対にダメだ
って、話も聞いてくれなかった
「………父さんと母さんだって、守りたかったんだと思うぞ」
ぎっと手を握りしめた僕の背中がゆっくりと撫でられる
「なんだよっ」
「だってなぁ、SeeDになったら戦わなきゃならないだろ」
「そうだよ、僕は戦う為に───」
「戦ったら怪我をするかもしれないし、もしかしたら死ぬかも知れない」
静かな声がゆっくりと話す
父さんみたいに怒鳴りつける声じゃない
けど、言葉が出せない
「少年が家族を守りたいって思うのと同じように、少年を守りたいってそう思ってるんだと思うぞ」
暖かな手が頭を撫でる
「でも………けど………」
僕は混乱して、何かを言おうと声を上げる
「もう一回話をしてみたらどうだ?」
だから、話を聞いてくれなかった
そう言おうとした言葉は
迎えも来たみたいだしな
そう続けられた言葉に途切れた

あれから何度か話をした
家族を守る為に戦う力を手に入れたい
その考えは無くなってはいない
けど
父さんと母さんの言い分も聞いた
話を聞いて、よく解らなかった
解らなかったけど、心配しているってことは解ったかも知れない
だから、今は言わない
今より大きくなって、そうしてからもう一度話をする事に決めた

子供を家の近くまで送り届け物陰から様子を見る
聞こえてくる小さな騒ぎ
「ま、大丈夫だろ」
これ以上は他人が踏み込む様な事じゃない
「ま、出来るなら………」
SeeDなんか目指さないで欲しいけどな
迎えに来たらしい友人の姿を眼に写しながら、ラグナはその場を立ち去った


 End