アンケート―ラグナの場合―


 
回されてきたのは1枚のアンケート用紙
良くある質問事項が並んでいて
特別おかしな質問は無かったけれど、ある1項目が手を止めさせた

―――あなたの趣味は何ですか?―――

これが自分の趣味だと答えられるような事は無い
だからといって、良く耳にする“仕事が趣味”なんてことは絶対に無い
それならば、休日は何をして過ごしているのか、と問われても
コレといった事は全く思い至らない
………あれ?
それどころかここ最近の休日は、何かをしていたという覚えも無い
「………これって、無趣味ってヤツか?」
困惑したラグナの声がこぼれ落ちた

趣味が無いなんて事は記入したくはない
けれど、どうにもコレといったモノが思い浮かばない
自分でわからないなら、誰かに聞けば良いんだよな
「俺の趣味ってなんだと思う?」
安易な考えで、ラグナは身近な人へと質問をした
仕事中に突然向けられたラグナの質問に2人の友人は
「脱走?」
『………さぼりじゃないか?』
趣味とは認められない―――認めたくない―――返答を返した
その他、その場に居た人々の返答も似たようなモノ
納得のいかない言葉に、少しずつ気分が悪くなる
んな、言われる程さぼった事も脱走したことも無いぞ
最優先事項が発生した際に、そっちの処理を優先して走る事はあっても、仕事自体はまじめにこなしていると思う………多分
っていうか、やっぱりこれって、無趣味だって事になるんじゃないか?

何故か落ち込んだ気分で帰宅して、望みを込めて今度は同じ質問を最愛の娘へしてみる
「おじさんの趣味?」
そう言ったまま、考えるように頬に手を当てて
「えーーと、身体を動かす事、とか?」
歯切れの悪い返答
「エルーー」
身体を動かすことって、それもやっぱり趣味とは違うんじゃないか
「やっぱり違った?」
エルオーネが困ったような表情で、ラグナの顔を覗き込む
「どうしても、おじさんって、いろいろ動き回ってるイメージがあるのよね」
良く考えて見れば、そうでもないってことは解るんだけどね
イメージと言われれば
まぁ、ソレは確かにそうかもしんねーな
ラグナ自身でも納得する他は無い
けれと、イメージはあくまでイメージ、だしなぁ
身体を動かす事は嫌いじゃない、けれどそれを趣味だっていうのは、抵抗を感じる
「………読書じゃなかったのか?」
二人の遣り取りに興味なさそうに座っていたスコールが不意に口を挟んだ
問いかける様に向けた視線に、スコールが本のページをめくりながら、一瞬視線を合わせる
紙を弾く指の音に、手にしている本がラグナが読みかけのソレである事に気が付く
ラグナの問いかけるような視線に
「大抵、本を読んでるだろ」
簡潔に言われた言葉に、ラグナは目を瞬いて
「………そういやそーだな」
思い当たるその行動に納得した
 

 End