仕事と役割

仕事の内容は当然職によって変わる
けれど、ついている職を聞けばその仕事内容はだいたいわかる筈だ
だから“大統領”という職業
その名前からイメージされる仕事内容
それから推測される仕事量を考えれば暇な時間などないはず
はずなんだが………
訪ねて行く度に当たり前の様に出迎える姿
入国を知っているのは情報が回されるからだとしても、ほぼ毎回の様に顔を出すのは問題
仕事にも支障が出てくる筈
よく仕事を抜け出している
そうは聞いていたが、それで済む話では無いはずだ
「仕事はどうしているんだ?」
思わずこぼれた疑問
その問い掛けに彼等が視線を交わす
「どうしている、とは?」
伝わらなかったらしい言葉に、一度口に出したのだから、と
「仕事をしなくても良いのか?」
直接的に問い掛ける
仕事をしている様子はさすがに見た事はあるが、仕事が立て込んでいる様子を見たことは無い
ふらふらと出歩いている事も多く
………言ってしまえば暇そうに見える
「………あぁ」
彼等が顔を見合わせ、理解したように頷きあう
「仕事もせずに遊び歩いていて大丈夫なのか、という所かな?」
「ひでぇな、遊び歩いてはいねぇぞ」
ラグナが笑いながら抗議の言葉を発するが
「そうだ」
ストレートに言ってしまえば、その通りだ
国のトップに立つ人間が、それほど暇な筈が無い
日頃から街の中を散歩しているっていうのは複数の意味で問題だ
その時間があること自体が疑問でもある
「疑問に感じるのは当然ではあるな」
そう言って、意味ありげな笑顔を浮かべる
「まぁ、簡単に言えば、それが仕事だって事なんだよな」
「散歩がか?」
「散歩も、だな」
疑いの視線に、ラグナ以外がそれが事実だと告げる
「積極的に話すような内容ではないが、“大統領”が仕事をしない事も仕事の内ということだ」
「どういう意味だ?」
確かに見ていて仕事をしているとは言えない状態なのは間違いが無い
彼等がより楽しげに笑みを浮かべている
「元々のエスタの状況のせいだろうな、アデルの様な独裁者が生まれる事を警戒しての処置ってことだ」
“魔女”アデルの呪い
アデルがエスタに君臨していた頃
国の全てはアデルの思いのまま
ラグナ達がここにいるのもアデルがやったことのせい
「第2のアデルの出現を警戒した?」
独裁者が消え、次の独裁者が生まれる事を警戒した
警戒した結果、仕事をさせないことにしたのか?
理屈は合っている様に思うが、それならそもそも“大統領”など作らなければ良い
「混乱した時だから、“魔女”から守ってくれる“英雄”は必要だった」
「ちなみに、街の中を歩くのは異変が無いかの確認と不穏分子の洗い出しなんてところらしいぜ」
まぁ、今はそれもあんま意味が無くなってるんだけどな
続けられる言葉に、呆れながらも理解はする
つまり、エスタの大統領は単にバランスを取るための重しで、なんの実権も持たないということなんだろう
だからこそ、ラグナで勤まっているということだろう

 End