記憶と夢

年に1度、飲み慣れない酒を買って
一人静かに飲み干す
たいして強くもない酒に溺れて
途切れる記憶
いつのまにか眠った先で様々な夢を見る
見る夢はその時々で様々で
幸せな夢の時もあれば
辛い夢の時もある
幸せな夢を見た後は、目覚めた後の現実が辛くて
辛い夢を見た後は―――
どちらにしろ、酒を飲んで見る夢はろくなものじゃない
そう解って居ても
この日は酒が必要になる
それはきっと、“幸せ”を実感するはずの日だから
家族が共に過ごす、そんな時期だから
失ったモノに思いを馳せて
あの時の事を後悔して
そんな後ろ向きの日を送るのが今までの恒例だった

いつもと同じ
いつも通り
滅多に飲まない酒を買い込んで
いつもと違う暖かな家
思わず玄関先で立ち止まれば
「お帰りなさい」
の声がかかる
長い時を経て取り戻した“家族”の声
これも、いつもの“夢”のようで
現実味のない現実
今にも目が覚めそうで、不安を感じる
………ずっと不安に感じていた
あの時からずっと、次の瞬間には目が覚めるんじゃないかって
これは現実では無く、ただ見ている夢なんじゃないかって
明るい声に導かれるまま、扉をくぐる
幾つかの見慣れた顔と
まだ、見慣れない姿
戸惑いながらも、掛けられた言葉に口は勝手に反応して
手にしていた荷物が取り上げられる
やがて手渡される、グラスと“おめでとう”の言葉
どこか現実味のない中で時間を過ごして
そして、いつのまにか記憶が途切れた

目が覚める
時計が指し示す日付と毎年の頭痛
あれも、夢だったか
「長い夢だったな」
思わず呟いた言葉を打ち消す様に、賑やかな声が聞こえた

 End