料理と器用さと性格と


 
料理を作るっていうのは、それはそれで一つの特殊な技能だと思う
別にナイフや剣の扱い方が上手くても、包丁の扱い方も同様に上手い訳じゃない
手先が幾ら器用だからといっても、料理の手際が上がる訳じゃない
ついでに言えばどれだけ良い味覚を持っていたとしても、味付けが上手い訳じゃない
アレはアレで特殊な才能
常々そう思ってきて、そう公言してきた
………んだけどよ
香ばしい、なんてのをとっくに通り越した物体
―――推測するに、肉なんじゃないかと思うが、もしかしたら魚かもしれない
煮詰まるとか、分量を間違えたとか、そういう次元じゃない位にどろどろとした鍋の中身
―――何を作るつもりだったのかは、推測するのも不可能だ
なんだか良く解らない食料の残骸を目にして台所の入り口で、ラグナはがっくりと脱力する
「いったい何をどうすればこうなるんだか………」
こういう状況ってのはさすがに初めて見たぜ
ため息を吐くラグナの向こうで、罰が悪そうに目が背けられる
料理の向き不向きで言えば確実に向いていないんだろう
けど、まぁそれだけじゃねーよな
料理向いていないだけの話なら、ここまですさまじい惨状にはいくらなんでもならない
いくらなんでも、肉――だと思うんだが――が焼け焦げる様な事態となれば、その前に気づき火を消す、位の事はする筈だ
なんてったって、注意力は文句なく良いんだからな
ってことは、だ
料理と同時に何かをしていたと言うこと
何かに気を取られ―――夢中になって、火を使っている事をすっかり忘れてたんだろう
まあ、こうなった事は仕方ないけどよ
「頼むから火事は起こすなよ」
大統領官邸が出火炎上なんて、シャレになんねーぜ
「………気をつける」
さすがに悪いと思ったのか、反論することなく答えが返ってきた

ついていたTVに視線を向けて
つい番組を見てしまった
なんとなく、番組に乗せられて覗いた冷蔵庫
必要な食材が揃っていたのが不運だった
説明だけ見れば簡単そうだった料理
実際にやってみたら思った以上に難しく
実行はしてみたもののソレが本当にソレで良いのか不安になった
そして―――
なんとなくむきになって読み始めた料理の本
細かな説明に目を通し、いつのまにか夢中になった
我に返った時は手遅れ
作った筈の料理は全て台無しだった

「今度は失敗しない」
食事の後、ぽつりと告げられた宣言
「ん、じゃあ楽しみにしてるよ」
そう返答は返したものの
………初めてであんま手の込んだものはやめといた方がいいんじゃねーかなぁ?
スコールが見ていたらしい料理の本を手に内心思ったことは、ナイショだ
 

 End