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必要な事?
 
  
 
 土地によって習慣や慣習、“常識”とされる事は違う
 派遣された場所に合わせた行動が必要になる
 だからこそ、さまざまな地域の知識を埋め込まれるガーデンでは、あまり固執する様な“常識”というものはなかったと思う
 だというのに、常識が覆される瞬間
 “エスタ”という国ではそれを幾度も体感している
 どこにも当てはまらない常識が存在する場所
 “非常識”とも思える数々の出来事にもいい加減慣れてはいたが………
 スコールは、手にした本に書かれた一文を凝視する
 幾度見ても凝視した文章は変わらない
 どうやら見間違いでも、読み違いでも無い
 「信じられないな」
 エスタから取り寄せたエスタの歴史書
 その初めが、スコールが習った内容と大幅に違っていた
エスタという国はセントラが滅んだ際にかの大陸から移住した人々が建国した国である
 エスタ国外で知られているエスタの基本的な知識
 エスタは、セントラ文明の末期に、かの国家から分離して建国された国である
 エスタ国内で伝えられている簡単な基本知識
 「“月の涙”がセントラに落ちる事が予測された際に、人々が避難した先がドールで、セントラに落ちる月の涙への対抗手段を講じる、もしくは月の涙の影響を観測するために残った科学者や技術者、まぁその辺りの人間の移動先がエスタだな、どっちも“国”として始まった訳じゃないがエスタの方が初めから一つの組織としてのまとまりを持っていたからそのまま“国”って言う形態にいつのまにか移行したんだろうな」
 画面の向こう側でラグナが真面目な表情で話す
 「どっちが正解かっていうと、どっちも正解になるんだよなぁ、ちょっとした視線の違いって所か?」
 どこに重点を置いているかの違い
 それはそれで良いが、今肝心なのはソレでは無く………
 「まぁ、エスタ内ではセントラによって新しく造られた国家だって考えが一般的だな」
 エスタ国内の大学に進む為に必要なのはエスタでの一般常識、基本的知識だ
 「セントラに対する思い入れは強いのか?」
 学参書の類に“セントラ”という文字を時折見る
 そしてエスタを現す際に使われる“セントラの後継者”という言葉
 「エスタ自身は“セントラの意志を継ぐもの”っていう言い方をするのが普通だけどな、セントラに対する思い入れっていうとな………」
 言葉を選び考えるているのかラグナの視線が彷徨う
 「そうだな、セントラの遺跡だのセントラの遺産だの、ああいったものに対する執着や固執ってのはあんまないみたいな感じがするな」
 確かに、セントラの遺跡に対する権利を主張したり調査を強行したりしない事を考えればその点は納得できる
 「ただ“セントラ”っていう存在には敬意や尊敬………憧れとか思慕とかはあるみたいだな」
 ちょっと微妙過ぎて分かり難いんだけどな
 「………つまり?」
 大まかに察することはできるが理解できるとは言い難い言葉に、スコールは端的に言い表すことを要求する
 「―――セントラの遺跡やら遺産やらに対する考察は何を言おうがOKだが、セントラに対する批判は明確な根拠でもないかぎりするなって所か?」
 悩んだらしいラグナには悪いが、その感覚も解りやすいとは言えない
 「………暴言じゃなければ大抵大丈夫だ」
 その認識も間違いじゃないのか?
 「細かい所は、経験すれば解るだろーしさ」
 困ったように笑うラグナに、漸くスコールは同意を示した
 「それで、なんの用事だったの?」
 思ったよりも長く続いた話に、途中幾度が顔を覗かせていたエルオーネが声をかける
 「んー、あれだ受験対策ってヤツ」
 最も大半はそこには直接関係のない話だったけどな
 「へぇ?スコール頑張ってるんだ?」
 「頑張ってるみたいだぜ」
 ただし受験勉強ってよりも、いかにエスタで上手く生活していくかの勉強をしてるような気がするんだけどな
 “セントラ”に対する感情、それは事細かに知る必要があるものじゃない
 本人は気づいていないみたいだけどな
 スコールの様子を聞くエルオーネに答を返しながら、ラグナは楽しげな笑みを浮かべた
  
  End 
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