避難場所


 
外の音を一切遮断する分厚い壁と扉
人気の無い広い部屋の中央に座り込み、一心不乱に手を動かす
知る人のほとんどいないこの場所は、誰かに邪魔される事無く過ごす事が出来る
誰にも邪魔されない時間が欲しい時
少しばかり集中したい用向きがある時
訪れる場所

時折、ラグナが姿を消す事がある
どうやらソレは、周りの人々には黙認されている出来事で、数時間の間の出来事ならどこにも姿が見あたらなくても誰一人騒ぎたてる事は無い
“いつもの事”
そう言って彼等は肩を竦める
だからといって同じように姿が見えなくなり、ラグナが突然どこかへ出かけた時は、すぐさま一騒動起きる
全く同じように見える状況
官邸を抜けだしたのかそうでないか
的確に下され、どうやら当たっているらしいその判断の基準は良く解らない
その日も、大統領官邸にラグナの姿は見あたらなかった

身の回りに在るのは静寂
ここにあるのは無機質な金属ばかり
たまに聞こえる物音は、全てラグナ自身が立てる音
人の気配を感じないこの場所で、時折ラグナは息を吐く
決して人の中に在る事が嫌な訳じゃない
人々の声や気配が苦手って訳でもない
むしろ、人の中に居る事や賑やかな場所も好きだ
そういう場所に居ることは苦痛ではない
けれど―――
時折、疲れる事が在る
辺りに人が居るという状況に、誰かの気配を感じる事が煩わしく感じる事が在る
“自分”以外の何も感じられないその場所で、ラグナはゆっくりと息を吐く
ほんの時折感じる息苦しさを全て吐き出す

“緊急事項でなければしばらくお待ち下さい”
そう告げられたのは既に1時間前の事
共に待たされているゼル達は、何か別の用件が入っていると思っている様だが
………空気が違う
辺りに感じる空気―――気配がいつもとは違う
いつもとは違う気配
何故かこの場所に違和感を覚える
ここが“エスタ”では無い様な錯覚を感じた

したいことがあるからここを訪れる
―――そんな事は滅多に無い
何かをするためにここに来る訳じゃない
ここは休息の為に訪れる場所
ゆっくりと、幾度も呼吸を繰り返し、息苦しさが解消される
無機質な部屋の中央で、ラグナは大きく伸びをした

気配が変わった
―――いや、変わったというよりも元に戻った
唐突に見知らぬ場所が“エスタ”へと姿を変える
スコールが変化を感じ取ってから数分後、エスタ高官に伴われてラグナが現れた

時折、どうしようもなく気分が沈む時がある
何もかもが煩わしくなって………
誰もいない場所へと逃げ出す
しばらくすれば収まる事だが、幾度か繰り返してきた事
たまには息抜きも必要だってこと
 

 End