祈りと共に


 
ひっそりと静まりかえった街に、きらびやかな装飾
目にうるさい程の装飾は、夜になればなったで、色様々な電飾へと姿を変える
朝の澄んだ空気の中に人の姿は無い
休日の朝だから、という訳ではなく、ここ数日は満遍なく街中に人の姿が見えない
「何の為に飾っているんだ?」
見る人もほとんどいないというのに
ただの飾りしか無い日中はまだしも、夜にわざわざ華やかな彩りを灯すのは無駄としか言いようがない
年が明けたエスタの様子はいつも以上に可笑しかった

「なんか年々派手にはなってるかもな」
のんびりとした返事をよこしたのは、年明け早々暇そうに暖炉の前でくつろぐラグナ
忙しい筈の最高責任者
“何でここに居る”
と聞いたのは随分前の事
“休日”にはどんな人でも仕事を休む事、というあり得ない決まりがエスタにはある事を知らされ、実際実行されている事を知ったのも随分前だ
「まだ休みだったのか?」
「休日だからな」
それぞれの箇所の責任者となれば休日が存在しないという常識はここでは通用しない
明確に決められた“国の休日”にはエスタ中の人間が仕事を休む
―――丁度今の様に
「ま、誰に見せる訳でも無いのは確かだけどな、最近は物好きな観光客が楽しんでるらしいしいいんじゃないか?」
見せる訳じゃないなら明かりを灯す必要は無いだろう
そう思いながらもスコールの口は別の疑問を呟く
「観光客?」
「おぅ、多くは無いがそれなりに居るんだな、こんな時期に来て何が楽しいんだか」
どうやら他国からの観光客が訪れている様だが、今の時期のエスタは“休日”の最中だ、人は誰一人仕事はしない
人が仕事をしない代わりに機械が全ての仕事を担当している
無機質で素っ気ない対応しか返ってこないが、在る意味貴重な体験ができると言えなくもないかもしれない
「エスタの機械は名物みたいなものだろう」
ソレを目当てにしていると考えれば観光客が訪れるのは別におかしな事じゃないが、その一環として派手な飾り付けをしているという訳ではなさそうだ
「いや、年々派手になってるのは、ソレのせいだと思うんだけどな」
見るモノが居なければシンプルに明かりだけ灯せば良いだけだろうし
呟かれたラグナの言葉にスコールは問いかけの視線を向ける
「ただの慣習の一つなんだけどな」

闇の中へと紛れ込む数々の“災い”
旧き年から吐いてきたモノ
年明けと共に生まれたモノ
それら全てが街の中へと入り込まないように
昼には日の光を
夜には人工の光を
街中へと隈無く注ぎ
“災い”を全て追い出す
人々は、全ての災いが逃げ出すまで、災いを取り込んでしまわない様にこの間の外出を避ける
何の根拠もない、古くからの習わし

「………だから“休日”なのか?」
外出するのを嫌がる古くからの慣習を守る為
誰も仕事をしない休日
スコールの言葉に答えは返らない
だが、小さく苦笑したラグナの態度が答えを告げた
 
 

 End