エスタの事情〜勤務〜


 
扉を開けると同時に目に入ってくる姿
いい加減見慣れた光景、だが………
「………あんた、仕事は?」
何度も見せられたその姿に、スコールは思わず疑問を投げかけた

組織のトップというのは忙しい
それはどんな規模の組織だろうが同じだが、規模が大きくなればなるほど、それなりに忙しくなる、はずだ
短期間とはいえ、スコール自身経験したことだから、十中八九間違い無いはずだ
だが………
ラグナは答を返さないまま無言でひらひらと片手を振る
もう終わったのは、休みなのか、それ以外なのか見当が着かないが、一国のトップであるはずのこの男が暇そうに寝ころんでいる
一度や二度、目にする位ならともかくとして、こう頻繁なのは
………いくらラグナでも問題だろう
スコールはため息を吐き、ラグナの背後を通り過ぎる
「心配しなくてもちゃんとやってるぜ」
そう言ったラグナの視線は手にした雑誌から動かないままだ
仕事はしたかもしれないが、とりあえず、じゃないのか?
思わずじっと睨み付けたが
反応のないラグナの様子に、再びため息を吐いてスコールはその場を離れた

大統領執務室
官邸内で一番広いはずの部屋は、一見すると狭く見える
物が予想外に多いと言うこと
それと人が多いと言うこと
書類を手にし、動き回る人々
その一番奥の場所が大統領であるラグナの席だ
「確かに、勤務時間が明確に決められ、守られているのはエスタくらいのものだろうからな」
「そーかもしんねぇけどさ、仕事なんて効率良く最低限でいいじゃねーか」
「わたしはその意見に賛成だがね」
キロスが受け取った書類を振り分けてラグナへと渡す
「ま、いつ何時何が起きるか解らないってのは解るし、そのとーりではあるんだけどな」
各専門のスタッフの手を渡りたどり着いた書類へとラグナは目を落とす
短くまとめ上げられた内容に、利点と弊害点、問題事項、慣例事項が書き記されている
「でもさ、いちいちソレにつきあう必要はないよなぁ」
サイン終えた書類を目の前の穴へと投げ込む
「エスタだからこそ可能な技ではあるがね」
机の片側に設置されたディスプレイが、幾つかの文章を映し出す
数秒の時間をおき、映し出される光景
「確かにそのとーりかもな」
画面の先から、ラグナを呼ぶ声が聞こえた

エスタ大統領官邸
本来なら四六時中働いている筈のその場所は、定刻に始まり、定刻に閉じる
エスタの公的機関のほとんどは、普通なら、夜中でも職員が常駐しているはずの場所でさえも、夜間になると人の気配がほぼ無くなる
―――昼夜無く人の姿が確認されるのは、研究院と軍施設だけらしい
定刻時には職員は一斉に居なくなる
それはエスタ国内では当たり前の事
だからといって、国民からは文句も出ない、不便さも感じない
時間外であっても、エスタ国内の公的機関はいつでも使える
ただ、相手が人間から機械へと変わるだけの事
同様に
大統領官邸にも幾つもの機械が備えられている
そして勤務時間外
緊急の連絡を受け取るのは彼等の仕事だと言うことは、エスタ国民以外は誰も知らずにいる
 
 

 End