遠い記憶


 
吹き抜けていく風に気を取られる
そっと触れる様な穏やかな風
通り過ぎる時にかいだ微かな匂い
海の匂い
花の匂い
不思議に柔らかな風
気を引く様にもう一度
微かに風が触れる
遠い過去が蘇る

辺り一面に咲く花の香り
たまたま強い香りがするものが無かっただけのか、それとも強い香りが嫌いなのか
花の中に囲まれていても、花の匂いは微かにしかしない
慣れてしまえば、気が付かなくなる程度の微かな香り
時折、海から吹く強い風が、花の香りを強くする
………その大半は潮の香りに混じり気が付かないけれど
ごくまれに、強く香る花の香り

辺り一面の植えられた花
初めて目にしたときは驚いて、感動して………
見慣れて仕舞った今は、そこにあって当たり前の光景
在ることが当然の存在
控えめな香りを放つ控えめな花はそこにあってないものになっていた
………ただ
時折強く風が吹く
微かに混じった花の香りがその存在を思い出させた

当たり前にソコにあった存在
当たり前過ぎて、意識する事もなくなった存在
あまりに当たり前で、香りがする事さえも気が付かなくなっていた
けれど花は無くなった訳じゃなく
ずっと変わらずそこにあった
花の香りも密やかにずっと………

無意識にかいでいた花の香り
そっと密やかな香りが、遠い記憶を呼び起こす
懐かしい記憶
愛しい記憶
とっくに忘れてしまいそうな、小さな日常がほんの一瞬鮮やかに蘇る
呼び覚ますのはいつも名前も知らない花の香り
潮風の中に混じって微かな花の香り


 End