1本の記事


 
武器を扱う
機械の操作を覚えるということ
様々な仕掛けを使える
様々な仕組みを理解するということ
エスタ軍においてはこのどちらも重要事項として取り組まれている

―――エスタ軍の組織は一種独特だ
戦う事を目的とした作りとは一線を画している
防衛の為の装備、それが基本となった作り、構造だと思う
軍という組織形態においても多分そうだろうと思う
―――実際の所は、軍組織としてのエスタ軍その物を目にしたことが無いから解らないが、目にした事のある範囲から予想してきっとそうだろう
エスタの軍の装備は“ラグナロク”という特異な乗り物を除外すれば、エスタ国外へと展開するには向いてはいない装備、設備だと思う
………もっとも、ラグナロクさえあればそれだけで充分だという意見もある
だが、他国の意見はともかく、エスタ国内に限っていうならば、ラグナロクはあくまで宇宙で使う為の設備であるらしい
宇宙―――正確には“月”
あの場所はモンスターの世界だと言われ、信じられている
実際に“月の涙”という現象を目にする限り、月がモンスターの世界だということはまず間違いの無い事だろう
エスタ国外では、“魔女アデル”の脅威から逃れる為に宇宙へ行く必要があったと解釈されている
その結果として生み出された機能だろう、といった考えだ
だが“魔女アデル”を封印した後からラグナロクの建造を始めたとするならば、ラグナロクの完成までどれほどの時間が掛かっているだろう?
既にラグナロクという機体が作製されており、後付で宇宙へと向かう機能がつけられたとしても同じ疑問が残る
果たして“魔女”はその間大人しく待っていたのだろうか?と
疑問は尽きないが、エスタは黙したまま真相を語ろうとはしない

「………で?」
差し出された雑誌の記事に目を通した後、ラグナは問いかけの視線を向ける
「いかがなされますか?」
この雑誌記事は当然エスタ国内で発売されているものじゃない
たまたま国外に出ていた軍人の一人か買い求めてきた物、らしい
どうするって言ってもなぁ
「どうしようもないんじゃないか?」
何も聞かれていな事に、返事を返す必要は無い
それにこの雑誌にしても、そもそも軍事関係でもなければ、武器関係の本でもない
もっと言えば、公式に売られている雑誌ですら無い
「それでは………」
「ほっといていいだろ」
記事の内容が真実にかすっていたとしても、わざわざコッチからソレを指摘してやる必要はない
ラグナロク建造の意味なんてものは、解らなければそれで良いし、その意味が必要になるなら勝手にわかる様になるだろう
「解りました」
誰かの手作りらしい雑誌が閉じられる
「この雑誌は………」
「持ち主がいらないっていうのなら、俺がもらっとくぜ?」
ラグナの言葉に苦笑いと共に雑誌が手渡される
退出していく後ろ姿を見送って、ラグナは雑誌を捲り記事を拾う
記事の内容も傾向もまるでばらばらの中身
所々現れる興味を引く文章
「少し警戒だけはしておくかな」
ラグナの言葉に、側にいたウォードが深く頷いた

 End