エスタの暮らし


 
暖かくなって
外を歩く人の姿が多くなった
エスタでは、人々は気候の変化に大きく左右されている、と思う
天気が悪い日には、街行く人の姿が幾分少なくなるし
荒れた天気なんていったら、街中から人の姿が消える
その他にも、寒さ暑さも影響を与えている様で
冬の間は、すれ違う人の数が随分減っていた
それはエスタでは当たり前の光景らしいけれど
エスタ以外の土地では、多少人の姿が少なくなるようなことはあっても、ここまで極端にはならない
だってね、ここ以外では生活に支障が生じてくるもの
この国は、暮らしてみて初めて解る様な仕掛けが存在している
様々な所での機械化
細部まで行き届いたサービス
エスタ人以外には触れることも気づくことだって無い仕掛けが施されている
それとなく聞いてはみたけれど
こういった仕掛けの数々はおじさんが造った訳じゃ無くって
ずっと昔、エスタの建国当時から仕掛けられて
歳月を重ねる毎に完成していったもの、らしい
“あの”時代に破壊される事なく無事に存在しているっていうのは少し腑に落ちないけど
………もしかしたらアデルも便利に使っていたものだったって事もあるかもしれないし
………………興味無かったって方が現実的、かな
時折、他国からの観光客らしい人達が珍しそうに、辺りの建物を見渡している
エスタに住んでいれば当たり前の建物
エスタに暮らしていれば当たり前の技術
エスタの人々のその大部分は、エスタ以外の国の事を知らない
知識や映像で知ってはいても、この地以外の場所へと行ったことのある人は数少ない
だから、どれほどの違いがあるのか、なんてきっと知らない
ずっと噂で聞いていた“エスタ”という国の事
随分昔、エスタに居た間は、技術がどう、なんて感じとるような余裕も無かったし
“エスタ”という国を見た訳じゃないから、こんな国だなんて思ってもいなかった
高度な機械技術、だもんね
耳に聞こえた観光客の言葉に、エルオーネはこっそりと同意する
“大したことがない”仕掛けにだって驚くその気持ちは良く解る
おじさん達も、ここに落ちついてしばらくした頃には―――当初はそんな余裕は無かったから気が付かなかったらしい―――色々なモノに驚かされたなんて言っていた
エルオーネは、晴れ渡る青空の下をゆっくりと歩く
久しぶりに会う顔見知りの人と軽く挨拶を交わして
まだまだ驚かされることは多いんだけどね
もうしばらくの間は、それも一つの楽しみかな?
壁の隙間を通り抜け地中へと消えていく後ろ姿を見送って、エルオーネは人通りの少ない道をのんびりと歩き出した
 End