冬支度


 
日に日に寒さが厳しくなってきた
「そろそろ暖房を入れないとな」
耐えられないほど寒いわけじゃないが、朝晩は冷え込むしなんとなく肌寒い感じがする
ガラスの外側に見える風景も、木々の葉が落ち寒々しい。
日中日差しが差し込む今の時間は暖かいが、日が陰り、日が落ちるととたんに気温が下がる
「やっぱり、暖房が必要だよな」
窓辺に寝そべりながら、なんとなく独り言を呟く
暖房器具、か
使いやすいのはどれだったかな
春に仕舞いこんだ幾つかの暖房器具を思い浮かべる
ああ、屋敷に設置されてるやつもあったな
………ほとんど使った事はないけどな
全ての部屋、全ての施設に自動で入る暖房は、使用していない部屋ばかりが多い状況では効率が悪かった
「今年は使ってもいいかもな」
住人も増えたし、時折訪ねて来る人の数、回数も多くなった
その分使用する部屋の数だって多い
ま、いつでもいるわけじゃないから無駄な時ってのが出てくるが、手間と効率を考えればそれが一番だ
「んじゃ、準備するか」
まだ、日があって暖かいうちに済ませちまおう
ラグナは立ち上がると、長い間使用したことのない設備へ向かった

鈍い音が聞こえる
「これは、まずいよな」
何かが絡まるような音
何か金属が引っ掛かったような音が聞こえる
「故障、だよな」
嫌な感じのにおいまでしてきた。
「とりあえず使うためには修理を呼ぶ必要があるったことは分かったんだけどな」
ラグナの指が何度も停止ボタンを押す
軽く空気の漏れる音が聞こえる。
停止する様子はない
「壊れるなら稼働する前に壊れてくれればよかったんだけどな」
溜息とともに、ラグナは電話を取り出す
電話をかけようと指が番号を押したその時家の中から叫び声が聞こえてきた

「長年使っていなければこういったこともあるかもしれませんね」
「簡単な点検は毎年行っていたはずだが」
呼び出された修理工とキロスがのんきな会話を交わしている
「それで、直りそうなのか?」
目の前にあるのは火を吹いて黒くすすけた機械
「そうですね………」
言い淀む様子が、どうやら無理だと予感させる
「屋敷内の設備は流用可能だと思うんですが、コレは取り換えなければならないと思います」
「当然だろうな」
「ま、その程度で済むんなら問題ないよな」
全設備交換なんて話になったらさすがに無理だけどな
「それでは、一度会社に戻ってから機械の方を持ってきますが………」
「別に大丈夫だよな?」
今日は休日ってやつなはずだし、まあ俺がいなくとも誰か対応してくれるやつはいるだろうし
「問題はないな」
ラグナの問いかけにキロスが答える
「それでは至急問い合わせてきます」
そう言うと慌てたように去っていく
「別にあそこまで急がなくてもいいと思うんだけどな」
「君はまがりなりにも大統領という職に就いているからな、ビジネスチャンスだと思ったんだろう」
「チャンスになるのか?」
「やり方によってはな」
キロスの言葉にラグナは肩を竦めるとひとまず家の中へと戻った

暖かな空気が流れている
家全体を優しい暖かさが包んでいる
「気持ちいいな」
ラグナのひとりごとに、同意の声が聞こえた
 

 End