無意識にこぼれ落ちる歌
意識して歌ったものではないから
それは、何度も歌ったお気に入りの歌だったり
何度も耳にした歌だったり
何か理由があるものがほとんど
だから………

窓の外から小さな歌声が聞こえる
用事のついでに立ち寄った“家”
居るはずだというエルオーネの姿は見えず
声を掛けても返事は無かったが、
外にいたのか
何かあったのかもしれない
という心配は杞憂に終わる様で、スコールは肩の力を抜く
声を掛けようと、窓際へと足を運ぶ
歌が聞こえる
先ほどよりもはっきりとした歌
無意識だからなのか、きちんと覚えていないからなのか、所々曖昧になる歌詞
掛けようとした声が飲みこまれる
聞き覚えのあるメロディ
覚えていない歌詞
無意識に口をつくフレーズ
不意にエルオーネが顔を上げる
途切れた歌
「あれ、スコール来ていたの?」
「………今の歌は?」
問いかけにエルオーネが不思議そうに瞬く
「今、歌っていた歌は………」
「………ああ」
歌っていた事にも気が付いていなかったらしく、少し考えようやく頷く
「気が抜けると歌ってるんだよね」
そう言ったエルオーネの目が優しい色を帯びる
「私もね、あまり覚えてはいないんだけど」
ずっと昔に聞いた歌だから
言葉と視線が告げる
その歌がどういったものなのか
「………昔も歌っていたか?」
生まれたばかりの頃の記憶が残るはずがない
「そうだね………歌っていた、かな?」
だから、俺が知る歌はきっと………

無意識の内に零れる歌
覚えのない歌
誰も知らない歌
遠い昔の記憶
 
 

 End