将来


 
そう言えば
「エルオーネは、何で大学に入ったんだ」
ふと、思いついた疑問
エスタでラグナと暮らし始めて
エルオーネは大学へと通う様になった
「私?私はいろいろ知りたかったから」
「知りたかった?」
「そう、何も知らなかったから、これから先何をしていけばいいのか解らないし、私が出来る事もなんにもないし、だからまずはいろんな事を知ろうと思ったの」
「だから、学校に入った?」
「安易だけどね、知識を学べる場所って言ったら、ね」
学校はもともと知識を与える場所だ
選択として間違ってはいない
けれど
「出来ることが無い?」
「スコール達みたいに、誰かの為に出来る事」
肩を竦めて、キッチンの奥へと消えていく
「エルオーネの方がよっぽど、人の役に立っている」
スコールの言葉に、返事は無かった

私が出来る事
私がやりたいと思うこと
全てが終わった後
私には何も残らなかった
ずっと永い間やりたいと思っていた
………ううん
叶えたいと願っていた思いは叶わなかった
レインとおじさんと、スコールが幸せに暮らしている世界
ずっと、あの時から私の望みはそれだけで
私にはそれを叶えるだけの力があって、いつか叶えられると信じてた
でも、私のたった一つの望みは、二度と叶える事は出来ないって解った
なら、何をすればいいの?
しばらくの間はそんな事を考えたりはしなかった
だって幸せだったから
ずっと会いたかった人達とようやく会えて、いろいろあるけれど平和な暮らしを手に入れて
しばらくの間は、嬉しくてはしゃいでいた
けれど、何かのきっかけで我に返ったんだと思う
今の私には何も残っていない事
ずっと願っていた望み
幸せに暮らしたいとか
平和に暮らしたいとか
残ったのは望みのカケラ、漠然としてはっきりしない望み
確かに“望む事”なのかもしれないけど
私がやりたいことや望んでいることじゃない
それなら私に出来る事は?
私にしかできない事、一つだけある
けれど、それは使ってはいけない力
もう使う必要の無い力
そして、ずっと閉じた世界に居た私には、知らない事だって多すぎて
………自分が何が出来て何が出来ないのかも解らなかった

「………役になんて、立ってないんだよ」
聞こえてきたスコールの言葉に、小さく返事する
誰かを助けようとか、誰かの為に、なんて私は一度だってしていない
全ては自分の為
今はその自分の為にも無いんだけどね
紅茶を煎れる短い時間
呼吸を整えて、気持ちを切り替える
「そういうば、そういうスコールはなんで、大学に行こうって思ったの?」
少し張り上げた声
紅茶を運んだ先で答えを躊躇うスコールが居た
 
 

 End