性質


 
エスタの科学技術は発展している
これまでもさんざん言われて来たことで、幾度も目の当たりにしてきた事だ
「エスタに来たばかりの頃はいろんな事に驚いていたんだけどね」
他国では見たことの無い機械
「今は慣れちゃった」
言葉通りに機械を使いこなしながら、エルオーネが言う
「使いこなせないよりは良いんじゃないのか?」
「そうなんだけどね、あんまり便利だと他の国に行ったときに困るんだよね」
毎日当たり前の様に使っている機械がない
いつも便利に使っている機能が無い
「………確かに、そうかもしれないな」
エスタからほとんど離れる事のないエルオーネと違って、様々な場所へ行く機会の多いスコールには思い当たる節が幾つかある
「出かける時はエスタから持って行っちゃおうかって思う事もあるんだけどね」
確かに不便さは解消されるだろうが
「荷物になるんじゃないか?」
手軽に荷物にするには、かなり嵩張る
「そうなんだよね、小型の機械を出してもらうか、いっそのこと他国にも売り出してくれれば良いのにね」

「エスタの一般家電類を売りに出さない理由はなんだ?」
エルオーネとの会話から数日後の深夜
居間で一人寛いでいたラグナへ何気なく問いかける
「………何の話だ?」
ソファーにだらしなく横たわっていた体を起こし、スコールへと視線を合わせる
「エスタの機械類の話だ―――」
エスタの軍事機器や研究機器を他国へと放出しないのは、国として当然の判断だろう
だが、一般家庭に普及している製品には、そこまで神経質になる必要は無い、はずだ
「まぁ、普通はそうなんだけどな」
困った顔でため息を零す
「普通じゃないのか?」
軽く返した筈の言葉に
「そうなんだよな」
重々しく頷かれ
「なんて言ってもエスタだしな」
ラグナの言葉に、困惑が広がる
確かエスタは他の国とは色々と違ってはいる
スコールの様子にラグナが肩を竦めて見せる
「エスタってのは、元々科学技術の発展した国だ」
魔女戦争が起きる前から、“セントラの後継者”を名乗れる程度には技術が発展していたのは確かだ
「技術が発展するってのには、それなりに様々な理由がある訳だ」
その方面に金をつぎ込んでいるとか
その分野に力を注いでいるとか
優秀な人材を育成しているとか
ラグナが指折り上げる言葉に、スコールは同意の印に頷いて見せる
ガーデンもその理屈で造られた組織だ
「んで、エスタは昔から、そういう方面に色々と力を注いで来た訳だ」
それで技術が発展した、理屈で言えば当然の結末
「それは良いんだけどな、国を挙げてそっち方面に力を入れると、必然的に国全体がそっち方向に傾くんだよな」
それは、力が入っている事を手がけるところが多くなるのは自然の流れだろう
「エスタには、学者やら科学者ってヤツが他の国よりも多いんだ」
………エスタでの知り合いが軍人か学者なのはそのせいか?
「だが、実は国の機関ってのは、他の国と比べて多いって訳じゃない」
ラグナが意味ありげに、手を握ったり開いたり繰り返している
「余った人材が何処にいるかっていうと、一般企業なんだよな」
それは、どこの国でも同じなんじゃないか?
「そこで力の限り研究した成果が、その辺につぎ込まれる」
その辺?
「また、エスタってのは、国の中では極めていい加減でさ、国の機関で開発された技術だろうが、その辺で生まれた技術だろうが、好き勝手に情報交換が行われてたんだよな」
わざとらしいため息が一つ
「どこにどんな技術が眠っているか、目下研究中だ」
エスタから、他の国へと輸出されているものは幾つかある
その中の、機械、技術の類で輸出されている唯一のもの
「軍事技術の方が遙かに安全ってことか」
「あっちは、何処に何を使ってるかはっきりしてるからな」
不意に、微かに部屋の片隅に置かれたラジオが鳴った
「………あれも謎の技術なんだよな」
ラジオからは、ラグナを呼ぶ聞き慣れた声が流れ出した
 

 End