サイン


 
様々な仕事が機械で処理され
遙か昔に比べれば、一つ一つの仕事に掛かる時間はだいぶ短くなっている
その分人の数も多少減ってはいるんだろうが
個々人が関わる仕事の量もそれなりに減ってきているはずだ
………その辺りは減ってるんだろーけどな
目の前に積み重ねられた書類にため息が零れる
技術が発達し
様々な場面で効率的に仕事が行われ
まーそれなりに人の数も増えた
ついでに、外との外交なんてものも復活して
………仕事の相対量自体は確実に増えている
書類を手にし、再びため息が零れる
「仕事が増えてってるってのは、気のせいじゃねーよな?」
室内に響いた声に答えは返らなかった

書類が回ってくる
内容をチェックし
幾人かとの相談を重ね、書かれた内容の行く末を決める
大まかな内容
予測出来る事態
関連する事項
必要となる情報を加えて、書類を回す
書き加えられる情報は、機械が介入する事によってだいぶ楽になっている
一日で処理できる書類の量は増え
難しい案件に対する時間も随分短くなった
幾人もの手を経て流れていく書類
途中で結果が出され、省かれて行く物も多いとはいえ
最終的な目的地はどれも一緒

「代わりにさ、ちょこちょこっと書いといてくれればいいんじゃねーか?」
ペンを走らせながらラグナが愚痴る
「その字を真似しろと?」
見せ付けるように肩を竦める
「特徴があって真似やすいじゃねーか」
「悪筆過ぎて、無理だな」
数週間に一度は交わされる会話
話を続けながら手は動いている
確かに、特徴と言えば特徴のある字
癖の強い字は、真似やすそうで真似にくい
書面へと書き込まれていくサイン
本人以外書くことの出来ない筈のそれは、偽造防止にはぴったりだ

仕事を処理す出来る量が増えて
仕事が回るスピードが速くなった
個々人が仕事にかける時間は減ったが
その中で唯一増えていった仕事
機械化出来ない仕事
署名
決定された事項に、記述されるそれは一つ一つ手書き
「………おわんねぇーなぁ」
なかなか減らない書類に、深いため息が零れた

 End