魔女の騎士


 
かつて、打算と金につられて出演したことのある作品
完成した形を見る事無く
実際に上映したという話も聞かなかった作品
短くはない歳月の中
そんな出来事があったことすら忘れていた様なこと
“魔女の騎士”
幼い頃に彼等が見たという映画
憧れすら抱いたという言葉に
感じたのは戸惑いと困惑
その場はそれなりに言葉を交わしながらも、あの映画が実際に上映されたことに酷く驚いた

「………映画か」
遠い昔の記憶
上手くエスタに進入する方法を探して、世界中を歩き回っていた頃のこと
「アデルに繋がる手がかりになるかもしれない、と参加したのだったな」
魔女アデルを掲げたエスタはあの時代全ての国と対立していた
確実に、出来るなら穏便にエスタへと入る方法を探していたあの時、たまたま出会ったのが映画の撮影
「結局役には立たなかったけどな」
あの頃魔女は“敵”であり、恐怖の対象
その魔女の良い所を取り上げる映画をあの時にあえて作ろうとする彼等は、アデルと何らかの繋がりがあるのだと思った
ま、結局はアデルどころかエスタとも関係の無い人達だったけどな
彼等が何を思ってあの映画を撮っていたのかは知らない
知ることなく別れ、俺達はエスタへと向かった
「あの映画が上映されたとは、驚きだ」
「だな」
あの時代よく“魔女の騎士”なんて映画を上映出来たもんだ
けど
「ま、あれを完成させたってのも驚くけどな」
やってるのは素人だ、演技なんて当然出来ない
戦いは一応専門だが、用意された武器はガンブレードなんて特殊なもの
モンスターの出現や予想外の出来事
言われただけの事はやったが、あれじゃあどうにもならないだろうってのは彼等と別れた後の話だ
「そう言われてみると、見てみたくなるな」
「どうやって合成したのか、か?」
さぞかし大変だったろう作業を思い、暫くの間昔話に花が咲いた

「………現実的な話をすれば、彼等以外は見たことは無いのだろうな」
エスタは他国との交流をしてはいなかったが、外の情報が全く入らなかった訳じゃない
他国の情勢もそれなりに把握はしていた上に“魔女”という言葉を見逃す筈はない
“魔女の騎士”という名の映画が上映されたという話は一度も聞いたことが無い
彼等が、孤児院で皆で見たという映画
「どっかで会ったんだろうな」
かつて“魔女の騎士”という映画を撮ったという人物とシドが
話を聞いて
丁度良い
とでも思ったんだろう
イデアは魔女だ
何処まで考えていたのかは知らないが………
「腹が立つな」
呟いた言葉に、視線が同意した

 End