侵入


 
扉を開いて、閉じる
思わず零れ落ちるため息
「どうかしたのか?」
何も無かったらため息なんて吐かないと思うわ
そう言い返したかった言葉は飲みこんで、曖昧に笑ってみせる
不思議そうな顔をして、近づいてくる
私は扉の前を離れて
手が扉を開く
「………………」
無言で閉じられる扉
ゆっくりと視線が向けられる
「………どうするの?」
問いかけにそっと視線がそらされる
「どうするっつってもなぁ」
知らなかったことにするって訳にはいかないだろうしな
ため息混じりの言葉に同じようにため息
無かった事になんて出来るはずもない
扉の内側から“カツカツ”と小さな音が聞こえる
なんとなく、顔を見合わせる
このまま、扉を開けずにいるって訳には行かない
扉をひっかく音と鳴き声が次第に大きくなる
どちらからともなく伸びた手が、もう一度扉を開けた

「どっから迷い込んだんだろうね」
エルオーネが顔を覗き込みながら問いかける
どこから入ったにしても大事だよな
不本意だが、ここの警備はそれなりに厳重な筈
迷い込んだのが猫だとはいえ、中に侵入されたってのは、なぁ
エルオーネがのんきに持ち上げている猫も、さっきまで警備の奴等にいじりまわされていた
結果、自力でどっかから侵入したってところに落ち着いたみたいだけどな
それはそれで大問題、と
向こうはまだ大騒ぎだ
いっそ誰かが持ち込んだんだったら、あいつらも気が楽だったかもな
侵入経路を割り出しているんだろう警備兵達を思い浮かべる
「それでこの子はどうするの?」
そう聞くエルオーネの目に期待が見え隠れしている
そいつ自体はただの猫だしな
「………いいんじゃねーか?」

その日から、優秀な猫が一匹住み着いた
 
 

 End