繰り返し


 
渡される報告書を流し読みして、サインをする
長い時間同じ作業をただ繰り返す

広い室内と大勢の人
いつもと同じ場所
いつもと同じ時間
いつもと同じ仕事
長い間変わらない場所で続けられる変わらない仕事
書類を見てサインをする
この場所に座ったばかりの頃はサインなんか到底出来ないような書類も多かった
自分の所へ回される前に周りが確認している書類
おかしなものはここまで回って来る事は無くなり
回ってくる書類の中で受け入れられないものはほぼ見かけない
お陰で仕事は単調
形式的に見てサインをする
ただそれだけ
そうとなれば飽きて来るのも当然
今は別に忙しい時期って訳でもない
室内の様子に目を向ける
黙々と仕事をこなす彼等の数はいつもよりも少ない
ここに居なければならない筈の補佐官の姿も幾つか消えている
ちらりと、脇を見上げる
いつもの様に目が合う
相手は、わずかに思案するような格好をとってみせる
『行くか?』
声には出さずに問いかける
目が笑う
今度は二人で室内の様子を伺う
計ったタイミングはおもしろい位に同時
「あっ」
誰かが上げた声を背後に俺達はさっさと執務室を抜け出した

「さて、どこに行くのかな?」
そう問いかけながらキロスの足は中心地へと向かっている
「ま、いつもの見回りだな」
「見回り、ね」
街中を巡って様子を見る
仕事の合間の息抜きもずっと長い間続けてきたこと
「偶には“外”へ脱走もおもしろそうだけどな」
「それはまたの機会にするとしよう」
スタスタとキロスが先に立って歩き出す
軽く肩を竦めてその後に続く
「ま、たまの息抜きだしな」
外に出るのは今度にするか
厚く曇った空が見える
「天気も悪いしな」
わずかに空を見上げるのと同時に、名前を呼ぶ声が聞こえた

明るい日差しが入る室内
何時間か同じ作業を繰り返して手を止める
「疲れたなぁ」
ぼんやりとつくため息の合間にも渡される書類
投げやりに目を通してサイン
次に渡された書類に手を止める
「いい加減手が疲れて来たぜ」
手を止めてぐりぐりと肩を回す
………天気いいよなぁ
ちらりと辺りの様子をうかがう
と、肩をつつかれる感触
『行くのかな』
キロスの問いかけに肯定の返事をした
 

 End