強くなりたい
そう願った気持ちは、変わらない
守ってくれる存在があっても、その思いは変わらない
忙しそうに働く大人達を見て……
探しにいけるだけの、彼等の手伝いをできるだけの力を望んだ

時は静かに過ぎていた
水面下に沈んだ小さな不安、深くしまい込んだ、悲しい記憶
ラグナがスコールと再会して、数年の歳月が流れた
それは、いつもと変わらない穏やかな夜だった
「軍に入りたいんだ……」
静かな時間を壊す事を恐れる事を躊躇うように、スコールは、小さく言った
「軍に?」
スコールの言葉にラグナは、反射的に読んでいた本から、顔を上げた
ラグナの視線を真っ直ぐに受け止め、ゆっくりと、深くスコールが頷いた
じっと、見つめるラグナの表情は、驚いている様な感じはない
「なんで、軍にはいりたいんだ?」
本を閉じ、ゆっくりとした口調で何かを確かめる様に聞かれる
きっと解っている
スコールが望むままに、剣の使い方を教え、時間があれば手合わせをして……
強くなりたいと思っている気持ちは知っている
「……………」
どんな風に説明すれば良い?
「理由は、あるんだろ?」
静かな声
急がせる訳ではなく、そっと先に押し出す様な
「待ってるだけなら、変わらないんだ……」
励まされる様に、スコールは小さく呟いた
ラグナは、何も言葉を挟まずに、言葉を待っている
「このまま、父さんや、いろんな人達が動いた結果を待っているだけなら、子供の頃となにも変わらない」
だから………
ただ待っているのではなく、行動したい
「……探しに行きたい、誰かが探してきてくれるのを待つだけじゃなく、自分も……」
力になりたい
「そうだな……」
吐息と共に囁かれた言葉
「それも一つの道だろうな」

―――エスタ軍本部内―――
エスタ国内の唯一の武力機関
ラグナが、この国に来た当時とは、大きくその趣を変えていた
生身の人間から、機械への移行……
技術の未熟さから、それはまだ完成していないが為、最も重要な部分は、人間が詰める割合もまだ多い
機械による強化を施された兵士以外に、他国と同様に、生身の兵士も存在する
機械強化された土地で、あえて生身でいるということは、それを必要としない程の身体能力を備えていると言うことになる
眼下で、そんな生身の一集団が動いていた
「……なかなか綺麗な動きをするじゃないか……」
スコールが、剣をあわせている
軽やかな動きで攻撃を避け……
「なかなか強いと思うが、ね」
感心したような、キロスの言葉
「それは、そうだろうな……」
勝利を手に入れたスコールが人々の中へと戻っていく
「エスタ有数の戦士が教師なんだし」
「そう言うことを普通自分では言わないな」
感動の対面を果たしてからしばらくたった頃、スコールが自ら望んだ事
「いいじゃねーか、とりあえず嘘でもないし……」
あの頃から変わらず、強くなりたいと思い
あの頃すでに、何かをしたいと願っていた
そんな感情の現れ
青年達の中で、少年の姿は人目を引く
自ら望んだ事…………
「………なにやってんだろうな」
賑やかな声が聞こえる
規律に守られた組織ではなく、エスタ国軍は、比較的自由な組織に変貌を遂げている
だが、ラグナのつぶやきは、彼等の行動に対する疑問ではなく
「なにが、かな?」
静かな問いかけ
軽やかな足音が遠ざかっていく
「………本人が望んだとはいえ、結局軍に入れてるんだ、何やってんだろうな………」
戦う為の技術、目的が変わったとしても、実際にやることにどれ程の差があるだろう?
結局は、同じ事を……
「状況が違っている、結果も違うものになるな」
そうなって当然だと言うように、確信に満ちた言葉
「そうかな……そうだと良いな……」

強くなろう
そう思ったのは、いつの事だっただろう?
守りたい存在ができて、その想いを強くして
守りきる事ができなかったあの時
深い後悔と、もう二度と誓った
そんな想いを感じる事が無いように、彼に守り切る事の出来る強い力を

 

 

 
END