始動


 
官邸内の片隅で主立った者が集まり開かれた会議の席、不意に舞い込んだ情報が波紋を広げた

「ガルバディアの侵略が始まった様です」
静かに終わりを告げようとしていた室内が一変する
ついに始まったか……
ガルバディアが不穏な動きを見せているのは、以前から解っていた
肥大し続ける軍事力
エスタという歯止めとなる存在が消失して、10年以上
良く持ったというべきなのかもしれない
「それで、どこが犠牲になったのかな?」
キロスの問いかけに、彼は妙な顔つきをする
「対象となったのはドールです。ですが………」
なんだ?返り討ちにでもしたのか?
歴然とした軍事力の差では、まともに戦争をして、ドールが勝ち残れた可能性は低い
「………こちらを見ていただけますか」
荒れた画質の映像が映し出された

見せられた映像は、ドール市街地での攻防
誰もが皆、見終えた映像に苦みを潰したような顔をしている
画面に現れたのはまだ年若い少年少女達
―――バラムガーデンの介入
戦場で武器を振るう姿が映し出され
ガルバディアが攻撃の手をゆるめようとしたする頃、次々と撤退していく彼等の姿
中途半端な攻撃
中途半端な援護
「……どういう事だ?」
ラグナの口から押し殺した声が漏れる
あんな子供達を戦場になんて置くべきじゃない、感情は当然の様にそう主張している
だが…………
「いたずらにかき回しているだけに見えるが……」
あれでは、後に残されたドールの人間がどんな目に遭わされるか
あの場で撤退するならばはじめから介入などしない方が良い
辺りを重苦しい空気が流れる
「バラムガーデンが、学園の所属する生徒達を傭兵として送り込んでいるというのは……」
学園内にもSeeDが存在する
だが、それは
「卒業してからの話じゃなかったか?」
SeeDという資格を手にいれ、自らその道を選んだ者だけが、戦士としての道を進む
「ここ数年、事情が変わってきたのかもしれません……」
事情……か
何かを感じたのか、それぞれが黙り込む
「詳しい事を知る必要があるかもしれないな」
静まり返った室内にラグナの声が響いた

「引き続き、ガルバディアの動きには警戒の目を向ける事にします」
集められた軍関係者で室内は活気づいている
次々と取るべき道が決められて行く中
ラグナは数人の人間と共に部屋の隅にいた
「まずはバラムガーデンそのものだが、これは部外者が行ったところで、どうしようもない」
事情を探るには、まず実際に見てみるのが一番てっとり早い
「はい、現在バラムガーデンは関係者以外の者が中に入る事は難しいと思われます、また、建物の中に入る事は仮にできたとしても……」
「見張りが付くってことだろ?」
そりゃ、勝手に動き回られたらいろいろとまずい事もあるだろう
「だが、関係のある者ならばそう厳しくもないだろう」
キロスの視線の先には2人の青年
「SeeDのその後なんて、ガーデンでは調べていないでしょうが、実際SeeDだったって事は証明できますけどね」
「引退した人間がそのつてを頼るってのも良くある話ですし」
SeeDがSeeDとして活躍する期間は年齢制限がある、らしい
だが、この際その辺の事は問題がない……ことにさせて貰う
「では、そういう事で、2人にはバラムガーデンに行って貰う」
同意の意味でこの場にいる全員が頷く
「それと、ドール側の事情ですが……」
内情を探るのは一筋縄でいかないならば、もう一方の当事者であるドールに聞けば少なくともあの時に何が起こっていたのか解る
「何かつてでもあるのか?」
「はい、多少時間は必要とするかも知れませんが、知り合いが……」
『それなら、その件は任せる』
ラグナが返事をするよりも早く、ウォードが彼の肩を叩く
問題はないだろう?
決定してからの問いかけの視線にラグナは肩竦めてみせる
「さて、そこで提案だが……」
今後の方針が決まり、動きだそうとしたところで、キロスの右手が挙がる
「なんだよ?」
「現役のSeeDから情報を得るというのはどうだね?」
「どういう事だ?」
それが難しいから手だてを考えてるんじゃないのか?
「今現在、任務の為に外に出ているSeeDもいる、その彼等に接触を図るというのは、比較的容易ではないかと思うんだが」
……なるほど、内容にもよるが、彼等の方だって人と接触する必要生があるって事か
「それは良い手かもしれませんが、誰がどのようにして接触するつもりです?」
確かに逆に近づいて来る奴を警戒するって事もありえる訳だ
「相手の警戒を解いて、なおかつ自然に情報を集める……できるやつはいるか?」
ラグナはウォードに問いかける
しばらく考え込んだ後、ウォードの首は横に振られる
「却下、だな」
案は良いかもしれないが、できる人間がいないなら仕方ない
「いや、私が行く」
予想していなかったキロスの言葉に、呆然と顔を見つめる
「ちょっと無理があるんじゃないか?」
「手だては考えてある、そこで、一つ貸して貰いたい人物が居るんだが……」
そういって、キロスは、ラグナを見つめた

翌日エスタからひっそりと小さな船が出航した
船が向かう先は、ティンバーに程近い漁村
『心配か?』
「……キロスが一緒だ、大丈夫だとは思うんだけどよ……」
前にも似たような会話をした事を思い出し、ラグナは苦笑する
励ますようにウォードが肩を叩いていく
「…やっぱり心配なんだろうな……」
遠ざかる船の上に2人の人影

「私達はただの旅行者なんだ、気楽にしていたまえ」
固い顔で海を見つめるスコールにキロスは声を掛けた
「………そうですね」
ゆっくりと詰めていた息を吐き出す
気を遣ったのか、遠ざかっていく気配
幼い頃の薄れた記憶がよぎる
「SeeDか………」
もう細かいことは思い出す事のできない記憶、あのころの友人や知り合いは、どれほど残っているのだろう
遠く大陸の影が見える

止まっていた時代が動き始めた
 
 

To be continued
 
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