観察


 
「あっちの方に行くか?」
指し示されたのか、入り口付近からは死角になるだろう場所
スコールは、反対の声を上げる事も無く、彼の後に従う
「……とりあえず、お互いの状況報告は後にしよう」
身を隠すとほぼ同時に、ゲートから壮年の男が姿を現した

シド学園長よりは若いな
初めて見る姿に意味も無くそんな事が思い浮かぶ
「スコール」
声を掛けるとほぼ同時に、スコールの掌の上に例の機械が現れる
「この距離なら使わずとも聞こえるかも知れないけどな」
保険の意味も込めて機械を作動させる、同時に聞こえてくる音、声
「俺達も居ても良いのか?」
「良、思」
「いいんじゃねーか?」
そんな遣り取りの後、整然と列を作る
そして、一糸乱れぬ独特の敬礼
「SeeDになりすますならアレも覚えて置くと良いかもな」
組織によって敬礼の種類は違う
そんな事は基本的な知識だが、とっさの際には忘れがちであり、それを専門にでもしない限り他軍の敬礼法など覚える事もない
俺の言葉に理解したのか、スコールが微かに頷く
「ま、うちはガルバディア軍と多少通じる所があるが……」
小さな機械を通し、感情の無い男の声が聞こえて来る
いや、感情がないというのは正確と言えない
あまり、歓迎出来ない類の感情を押し殺した声音といったところか
表情が見れないのは残念だな
声だけでも推測する事は可能ではあるが……
よどみなく流れる言葉、声挟むことなくまくし立てる言葉
「口を挟んで欲しくない?」
「やましい事がありますって感じだな」
俺とスコールの口から似たような言葉が零れた
当たりってとこか
声を聞いて同じ結論に達するという事は、ほぼ当たりと考えて間違い無いだろう
スコールは、こういった推測は得意だ
……まあ、育った環境を考えれば自ずと得意になるのかも知れないけどな
ほんの一瞬、特殊というか特異な環境を思い出し、妙な説得力を感じた
『命令内容を実行できる人間がいない』
そっけないというか乱雑なサイファーの声が、思わず思い出に浸りかけた俺の意識を引き戻した
……狙撃?
バラムガーデンでは聞く事の無かった単語
命令書の発行の前後に呟かれていた独り言には、魔女を直接殺めようとする様子は無かった
言葉にならなかっただけか?
それとも………
オルロワの思考を遮るように
「アーヴァイン・キニアス!」
男の声が辺りに響き渡る
辺りを見渡す彼等の身体の向こう、ゆっくりと身を起こす少年の姿
ライフルを肩に担ぎ、ゆっくりとした足取りで近づいてくる
“狙撃”
その単語が脳裏に強く浮かぶ
「不味いかもしれないな」
スコールが何か問いたげにこちらを見ていた

現れた時と同じように尊大な態度で男が姿を消す
「……行きますか?」
姿が消えた事を確認して、スコールは賑やかな彼等を指し示し問いかける
彼等の行き先はデリィングシティ
目的地は同じ
「……………とりあえず挨拶はしておくか」
あまりにも大人数で目立つ一行に、即答を避けたオルロワの気分が判る様な気がした
 
 
 

 To be continued
 
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