演説


 
辿り着いた場所は、辺り一面の人
「……満員だな」
淡々とした声が言葉を漏らす
演説開始まで、まだ一時間ほど余裕がある
「この人出は、期待の高さの現れ、と見るべきか……」
満員の人混みの中、大きなトラブルが起きる事もなく、ただ大人しく始まりの時間を待っている
「それよりも……」
指し示されたのは、人々が熱心に見上げる先のテラス
何らかの作業をしている人々の姿が見える
………何?
「………TVだな」
演説台の上に置かれるマイク
視線を移した先、離れた位置にある建物に置かれたカメラ
「………この間の成功で味を占めたって訳か……」
テロの影響で中断されたTV中継
結局、最後まで映る事無く終わった魔女の姿
「“魔女”の存在を駄目押ししておきたいといったところかな」
“魔女”という言葉の響き
「――“魔女”はそれだけで恐怖の対象になるからな」
語り聞かされた、魔女の恐怖
「本物がいる事を強調したいんだろう……」
実際の事を知らなくても、感じる恐怖
不意に黙り込んだ3人の耳に、浮かれた声が綴る言葉が聞こえる
“魔女”への期待に満ちた言葉
「全面的な協力、か……」
設置されたライトが、魔女が立つはずのテラスを照らした

期待を浮かべた人々の熱っぽい視線
辺りを覆うざわめき
空気が異質な色に染まる
時折、何者かに飲み込まれそうになる意識を必死で保つ
すぐ側に感じる視線
たまらず振り向いた所で、誰も居ない
けれど、相変わらずの視線
ねっとりとからみつくような異様な感覚に、背中を冷たい汗が伝った

人々の間から歓声が沸き上がる
テラスにゆっくりと現れる人影
現れ出た魔女の姿と共に、赤い光が辺りに灯る
毒々しい程の赤
辺りをテラス不気味な光
「……これは……」
「嫌な感じですね」
全身で感じる、嫌な予感
「すぐに逃げ出せる様にしておきたまえ」
キロスの言葉に辺りの状況を伺う
すぐ先にも裏路地へと続く細い道が見える
幸いな事に、人の姿が殆ど見えない
視線を交わし、魔女の言動に気を配りながら、ゆっくりと歩く
「―――」
機械を通して聞こえた魔女の声に、スコールは弾かれたように視線を向ける
聞き覚えがある?
遠く隔てられた魔女の姿は、どんな姿を、顔をしているのか、良く分からない
「……スコール?」
間近で呼ぶ声に、我に返り、彼等の側へと足を運ぶ
魔女の言葉が綴られる
意味の通じない言葉
次第に強く、高くなる声
「……まずいぞ」
慌てたように大統領の声が割り込んだ
魔法の輝き
人形の様に飛ばされる男の姿
そして………
辺りを埋め尽くすような人々の歓声
魔女の言葉とは裏腹に、壊れたような歓喜の声が上がる
飲み込まれそうな恐怖
同時に
身を任せてしまいたくなる甘い響き
ふいに背後から伸びた腕が、スコールの身体に回され
半ば引きずられる様にして、路地へと連れ込まれる
「大丈夫か!?」
青ざめた顔が覗き込んで来る
『魔女のしもべたるガルバディアも永遠に!』
魔女が高らかに宣言した
 

 To be continued
 
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