実行開始


 
「おい何をしてる!」
悲鳴の様な叫び声が聞こえる
半ば開いた扉が止まる
「そこは先日から使用中だっ!!」
怒鳴り声と、慌てたように閉じかける扉
隙間から見える人影
鋭い舌打ち
「行くぞっ」
扉を身体で押しやり、隙間へと強引に身体をねじ込む
勿論武器はねえ
囲まれたりしたら厄介だっていうのは解っている
だが、今が絶好のチャンスなのは間違い無い
そいつをみすみす見逃すなんてのは馬鹿のやる事だ
身体に触れた扉があっけなく開く
「!!」
息を飲む音と感じた気配に、右手に視線を向ける
我に返ったように、武器を構える兵士の姿
反射的に動いた身体が、愛用の武器を探す
「まかせろっ」
それとほぼ同時に、背後から人影が駆け抜けた

―――第一段階作戦終了
集中していなければ解らない程度の合図が届く
―――第二段階開始
スコールがゆっりと制御室の扉を閉めた
無人の室内で、壁一面の機器が微かな音を立てて稼働した

目的の階、運が良いのか悪いのか、正面から巡回中らしい兵士が歩いてくる
辺りをやけに見渡している所を見ると、新人だろうか?
彼の行動を目の端で抑えながら、堂々と歩みを進める
怯える必要など何処にも無い
ガルバディアの軍服を着ている自分は、確実に同僚に見えるだろう
………まぁ、顔を覚えられる事を極力避ける為に深くかぶった帽子が不審と言えば不審かもしれないが、年輩の兵士にはままある事だ、向こうの方が勝手に解釈して触れずに居てくれるだろう
「ご苦労様です」
若い声が、形通りの敬礼を寄越す
キロスは返礼のみを行い、悠然と通り過ぎる
耳に挟んだ通信機から小さな合図が聞こえる
目的の扉までは後ほんの少し
たった今すれ違った兵士の気配を辿る
必要以上に辺りを警戒した足取りは、なかなか先に進まない
好都合かもしれないな
袖口から、左手の中へと小さな機械を滑り込ませる
軽く握り混んだ手の中で、起動の為のスイッチを押す
小さな手応え
囚人の様子を確認する様に、扉へ近づき中を覗く
扉から離れた場所で座り込む人影
苛立った様に、うろうろと歩く姿
これなら問題無いだろう
素早く手の中の機械をノブの下へと貼り付ける
興味が無くなったかの様に、扉から離れ変わらない足取りで再び歩き始める
ゆっくりと進む足が、階段を下る
足が、1階下のフロアを踏みしめる
変わりない歩調で足を進めながら、冷静に時間を計る
トラブル発生を告げる声は無い
右手の中に現れた小さなリモコン
研ぎ澄ませた感覚が感じ取る震動
此処までは何の問題も無く全てが動いている
右手が、小さなボタンを押す
一拍時間を置き、頭上で小さな爆発音が響いた

―――第二段階終了
キロスからの合図が届くと共に、スコールは最上階の入り口から1人の男が施設内へと忍び込んで来るのを確認した
用意していた最後のピースが揃う
彼の役割は脱出路へと続く道案内
「何処に居るんだろうな」
不安そうな小さな呟きが聞こえる
辺りには、本来なら配置している筈の他の兵士の姿は無い
警戒しながら、彼が一台の端末へと手を伸ばした
 
 
 

 To be continued
 
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