船上


 
遠く波の音が聞こえる
眼の前には、夜の闇に溶け込んだ海が広がっている
波音に紛れる程の小さな音と共に船が進む

うち寄せる波が船を揺らす
長い年月の間に、いつのまにか慣れていた感覚
今までとは違う船の上で、慣れた感覚に身を任せている
きっと来る追っ手を巻くためなのか、船は明かりも付けずに進んでいく
あたりの景色が一つも見えない中で、躊躇う事無く船が進んでいる
遠く身の音に紛れて、船の音が聞こえる気がする
あの子達は、まだ探しているんだろうか?
遠く聞こえる船の音は
聞き慣れた、あの船に似ていた

砂の動きが止まった
辺りに響いていた音が途切れた
スコールは砂を祓いながら、収容施設へと首を巡らせる
地中へと沈み込んだ姿が陽炎のように揺れる
空から降り注ぐ日差しを上げた手で遮り、建物を見つめる
「何処か故障でもしたようだな」
すぐ隣から聞こえた声と共に、双眼鏡が差し出される
簡単なお礼の言葉と共に、双眼鏡を覗き込む
逆方向に脱出するはずの彼等の姿は元より見えるはずもない
それでも引き寄せられる様に覗き込んだ視界の先に、建物から昇る細い煙が見える
記憶にある限り、スコール自身がおかしな事をした憶えはない
「……壊したのか?」
本当に壊れていて、自分達が原因で無いのならば、考えられる事は一つ
彼等が脱出の際破壊したと言う事だ
「確かに、問題は無いな」
3つの塔へと視線を走らせるスコールの背後で、どこかのんびりとした会話が続けられている
聞くとも無く耳に入る会話を聞いていると、根拠も無く大丈夫だという気がしてくる
待ち人達も姿を表さない
小さく息を吐き出して、スコールは空を見上げた
―――っ!?
不意に耳に響いた高音
一拍遅れて続いた轟音
音と煙を残し、空を幾つもの物体が飛び去っていく
緊迫した空気が流れる
「何処だ?」
硬い声が問いかける中、建物の中から人影が顔を覗かせた

入り組んだ入江に隠された漁船
偽装されたエスタの船へと乗り込む
数人のムンバと、エスタの人間とで広く無い船内は一杯になった
「少しばかり狭いが我慢してくれ」
船の隅へと寄り固まるムンバ達へキロスが声を掛けている
理解したと言うように、ムンバ達が何度も頷く
「やはり、私達は後から戻った方が良いのでは?」
おそるおそると兵士が申し出る
『それはダメだ』
ウォードの声の無い言葉と共に、静かに船が動き出す
船室の外には暗く闇に沈んだ海が見える
船が照らす明かりが、時折波に反射する
「魔女が動いた以上、いつ正体がばれるとも限らない」
情報よりも安全を優先した命令
軍事施設から発射されたミサイルは、トラビアへと向かったらしい
魔女の目的は未だ解らない………
見慣れない夜の海が、不気味に蠢いている
気が付けば、船の中は、不思議な程静かだ
何か大変な事が起こりそうな予感がする

暗く闇に沈んだ水平線の向こうから船の音が聞こえた
 

 To be continued
 
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