緊張


 
入港する船が見える
ゆっくりと近づいてくる貨物船
周りに居た人達が、船を迎える準備をしいる
船の甲板に見える人影
そこにいる人の中に、身覚えのある人の姿が見えた

『スコールが来るのを待ちます』
おじさんの所へ行くのは大変みたいだから………
問いかけに笑ってそう答えた
『少し待っていてくれるか』
そう言って彼はエルオーネを置いて行った
残された港に付属した施設の中での部屋で、エルオーネは窓辺へと歩みよる
見るとも無く見る港の光景
この時間入港する船が他にはないのか、地上には人の姿は全く見えない
視線がゆっくりと空へと向かう
太陽の光が降り注ぐ頭上には月の姿は見えない
その近くに在るという、おじさんのいる施設も見えない
きっと、今が夜で、月が見えていたとしても、その場所は見えないのだろうけれど………
それでも、ほんの欠片でも見えていたら、もしかしたら違う選択をしていたかもしれない
行くのが大変だろうから、なんて少しも思わなかった
ただ、覚悟が出来ていないから
恐かったから、ただ言い訳にしただけ
空を隠す様に大きな雲が1つ流れてくる
あの人が言った言葉を心の底から信じる事が出来ない
本当に私の事を探していてくれたのか
本当に私を待っていてくれるのか
私は、レインとの約束を守れなかったから……
流れて来た雲が太陽を覆い隠す
日が陰り、辺りが薄暗くなる
ただの自然現象
その筈なのに、心臓が大きく脈打った

船が滑らかに接岸する
見つけた人影から目が離せない
良く知っている人達
足を止めたまま、動けないでいるエルオーネの背中に手が触れる
僅かな力を込めた腕が、促すように背中を押す
押されるままに足を一歩大きく踏み出す
昔と変わらない2人の傍に居る少年の姿
たぶん、きっと………
船の近くで足を止める
後は彼等が降りてくるの待つだけ
ゆっくりと下船してくる彼等が足を止めた
スコールと視線が合う
微かに浮かんだ、不思議そうに何かを考える様な表情
………似ているね
顔も、表情も、仕草も………
レインとおじさんに、似ている
ゆっくりと降りてきた3人の足が地面を踏んだ
エルオーネは、小さく息を整える
隣の彼の手招きに3人が傍へと近づいてくる
「久しぶり」
誰よりも早くかけた言葉は、緊張に声が震えていた
 

 To be continued
 
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